長編 | ナノ

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「あ、風見さん。お久しぶりです」
「苗字さん!?何故ここに…」
「あはは…」

登庁して早々、周りからまるで腫れ物のような扱いを受ける。無理もない、潜入捜査中は登庁することなんて滅多にないし、風見さんと連絡を取るときも外で行うようにしてきた。
…というか、ほとんどの人が怯えたように挨拶をしてさっさと行ってしまうか、遠くから見つめてくるだけなんだけど。まぁ、滅多に登庁しない人が突然来たら何があったか気になるだろうけど、流石にこの対応は…。

「まさか、降谷にまでこんな態度なんですか?ここの人たちは」
「いえ、降谷さんにはちゃんと挨拶するんですが…その…」
「…私何かしたっけ……まあいっか!」

早速、私の席に座ると風見さんが待ってましたと言わんばかりに書類を持ってくる。ずっと席は空けてたけどこんなに溜まるほど不在にしていた覚えはない。何かがおかしいと思い、ぺらぺらと書類をめくってみると、大半の書類は降谷宛。…え?

「…ん?降谷?これも、これも!?風見さん、これ私のじゃ…」
「降谷さんから連絡を頂いていて、苗字さんに回せる分は回しておいてくれと…」
「はぁ!?」

確かに重要な書類ではあるけど、どれもこれもわざわざ降谷が出向いて処理するようなものではない。私でも問題はないだろう。…でも、降谷の仕事をやるためにここに来たとなると、何だか癪だ。組織の任務を奪ってまでこの処理を私にさせたかったのか、あいつ。何なの。何がしたいの。
考えれば考えるほどむかついてくる。

「っもう!!」
「!?苗字さん…?」

ダァン!と力任せにデスクを叩けば、風見さんを始め、周りの人も飛び上がるほどに驚く。しまった、つい感情的になってしまった。周りにすみません、と謝ってから書類と向き合う。いけないいけない、職場に私情を持ち込んではいけない。私情で動いてしまえば、必ずボロが出るのだ。組織の任務だってそう。きっと何か訳があって外されたのだろう。
冷静になれば大丈夫、落ち着け、と言い聞かせて書類に取りかかった。

…私の様子を見ていた風見さんが、スマートフォンで誰かと連絡を取っていることも知らずに。