∴ 3 19時ぴったり。言われた通りポアロの裏にある駐車場へ行ってみる。 …案の定、彼の愛車であるRX-7はエンジンをふかして待っていた。 窓も何も開けてくれないということは、助手席に乗れって言うことだろうな…とこれから起こることに少し肩を落として助手席の扉を開けて乗り込む。 彼は乗り込んできた私に視線を送るが、すぐに手元のスマートフォンへと視線を戻した。 「…あの、安室さ…」 「お前にその名前で呼ばれると虫唾が走るから黙ってろ」 「あ、はい」 いやあああめっちゃ怒ってる。あの優しい安室さんはどこへ行ったの。 大人しくしていると安室さんはスマートフォンをしまってそのまま車を発進させた。 「…あの、どこへ…」 「ベルモットがお呼びだ」 「へ!?ベルモット!?まさか私を乗せたままベルモットの所に行く気?」 「あぁ。ベルモットが会いたいそうだ」 任務の話だろうか、それとも…。万が一のことを考えて首を横に振る。マイナスなことは考えない方がいい。 でも、万が一のため…と懐にしまっておいた拳銃をそっと撫でた。 「安心しろ、コードネームはベルモットに気に入られている。話が済んだら戻ってこい」 「…了解」 いつの間にか真っ暗な森へと来ていたみたいで、少し先の木の陰にはベルモットが退屈そうに寄りかかっている。正直怖い。いやおばけ的な意味で。 「バーボン…暗いんだけど…」 「……ヘッドライト付けててやるから早く行け」 「ありがとう…」 少しだけ照らされた木からベルモットが徐々に近づいてくる。それを見て私は慌てて車から降りて、彼女の元へ向かった。 「久しぶりね、コードネーム」 「お久しぶり、ベルモット。それで、話というのは?」 「これ。ジンからよ」 手渡されたUSBをポケットに入れ、小さく頷く。 「…了解。これ、バーボンには話しても?」 「構わないわ。貴方達、本当にずっと一緒にいるのね。もう手は出されたの?」 「…笑わせないで。あんな胡散臭い男、こっちから願い下げよ。腕だけはいいみたいだから利用しているだけ」 「ふふ、まぁ今はそれでいいわ。何か進展があったら教えて頂戴ね。もちろん、任務についても彼についても…」 Bye、とひらひらと手を振りながらベルモットは森の奥へと進んでいく。どうやら向こうにジン達がいるみたいだ。しばらくすると車が走り去っていく音がして、それを聞き届けてからバーボンの車へと戻る。 シートベルトを締めながら先程のUSBをバーボンに手渡した。 「これ、ジンから」 「…後で確かめておく。もうあいつ等は行ったのか?」 「えぇ、進展があったら教えて欲しいそうよ」 「進展、ね…」 あったらいいけど、なんて少し笑って車を発進させた。 会話のない車内の中、震えた手を抑えるように摩っていると、零の手が私の手を包み込むように握ってくる。 いくら潜入捜査中とはいえ、怖いものは怖いのだ。 「…まだ、ダメか」 「……当たり前でしょ。怖いよ、いつバレて殺られるか分からないんだから」 嫌な汗が背中を伝う。でも、こうやって触れてくれる手があると、私はまだ生きていると実感できるのだ。 って、そんなことより。私には確かめなきゃいけないことがある。 「…ねぇ、安室さん」 「……お前…」 ぱっと手を離されて少し寂しい気もするが、そんなことを言っていられない。零の鋭い視線にやられてしまう前に、聞かなければ。 「……いつから“安室透”になったの。何も聞いてないよ」 「その様子だと、今日はたまたまポアロに来たんだな。まぁ、連絡する手間が省けて丁度良かったが」 「…何よ、あれ…」 「何だ、安室透について言わなかったこと怒ってるのか?」 「違う、私はっ…!」 「あんな格好いい人に出会ったことないから興奮してっ…!」 「………は?」 |