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「光!またそこ間違えとる!」

「うっさいわ!俺やて人間や、失敗くらいするわあほ!」

「なんそれ逆ギレ!?あたしに向かってようそんなこと言えるなあ!?」

「二人とも落ち着け!な、ゆっくり話し合っていこうや」

「謙也さんは黙っといてくれます?」

「そうそう!謙也はドラムたたいとったらええねん」

「お前らなんや人がせっかく心配しとんのに!先輩を敬え!」


俺が中2のときに3人でバンドをつくりあげた。まあ、つくったきっかけは流れで、3人とも音楽好きという共通点でやってみようかと立ち上げた。名前は、なんやったっけなあ…。「関西スピードピアス」?いや、「浪速バンド」やったっけなあ?

とにかく俺はギター、謙也さんはドラム、そんでこのむかつく女はボーカルやっとるんやけど…この女がまたやっかいでな


「光!なに間違えとんねん!そこは♯やろお!?」

「あほ!ギターに♯も♭もないねん、この音痴が」

「いくらギターの楽譜が普通のと違くてもなあ、あたしの絶対音感は確実なんや!音痴ちゃうわぼけ!」


ボーカルのくそ女とは結成した当初から仲が悪かった。なんでも謙也さんと幼なじみらしく、ボーカルはこいつがいいっちゅう謙也さんの推薦でこの女と組むことになった。せやかてこの女とここまで相性が合わんのも致命的や。文化祭ライブでもやろかってときにこんなんじゃやってけへんわ


でも……こいつの歌声だけは俺も嫌いになれへんねんな

謙也さんが推薦しただけあって、こいつはほんまに歌がうまい。歌手にしてもええ線いくんやないかと思う。なんちゅーか、きれいに高音でてるし気持ちもこもっとる。ただ、あのわっがままな性格だけ直してくれたら普通にかわいい女なのに



「…なにしてんの光」


でた。わがまま女。俺はいかにも嫌そうな顔をして一瞬だけ見てまたギターに集中した。そいつは静かに防音室の扉を閉め、そっと俺の隣に座った


「なにしてんねん。部活は?」

「終わった」

「…ふーん。熱心に練習して、くやしかったんか?」

「……当たり前やろ」

「へえ〜、偉い偉い」

「やめろや気色悪い」


俺はなでられた手をどけた。きしょいっちゅーか、照れるやん。いつになく素直なこいつに俺は少し戸惑ってた気もした。なんやねんこいつ。俺をおちょくりにきたんか?


「あんなん冗談やったのに。そない気にしとったん?」

「女に指図されて悔しくない男がおるわけないやろ。俺は謙也さんみたいに上手くないし、練習量も少ないし、こういうとこでしかできひんやん」

「そうなんかあ」


努力家なんやね、とまたこいつにほめられた。なんやねん、調子狂う。いつものあれはどないしたん?まあ、喧嘩すんのは面倒やからええんやけど…


「そんな努力家な光に、嬉しいお知らせがあります」

「…………は?」

「ライブハウスでの公演が決定しましたー!」

「まじで!!?」


ライブハウス!?今まで路上とか学校でしかやったことなかったから、なんか、めっちゃ嬉しい…。今まで頑張ってきてよかったなあ、なんて柄にも無くそう思った


「それと…」

「?」

「プレゼント」


俺の手のひらに隠しながら手渡されたのはピックやった。これ、俺が欲しかったやつやん…


「誕生日、やろ?これでライブ、がんばろうや」

「…おん、ありがとな」

「それで、あたしのライブ成功させてな」

「お前だけのライブちゃうわ」


俺は今日だけこいつの優しさを見たのかもしれへん

2010/7/20
財前くん 誕生日おめでとう!