An unexpected holiday 不覚にも熱を出した。 復活してから聖域の復興作業に勤しんで、それも終わりが見えてきたからかつい気が緩んで風邪を引いてしまったらしい。 そんな訳で、聖域の中にあるグラード財団経営の総合病院に受診しに行った。 ちなみにこの総合病院、聖域の近代化の一環で作られたものだ。 それまでの聖域には、診療所はあったのだが命に関わるような怪我や病気には対応できずにいた現状を見た沙織が建設させたのだ。 病院でも当然『風邪』の一言で片付けられ、点滴を打ってもらってから薬を数種類出してもらい、病院を後にした私は、来た時と同様に風邪の影響で痛む筋肉を必死(?)に動かして十二宮の階段を上り始めた。 こんな時、一番上に宮を建ててもらった事を後悔してしまう。 「あー……祭壇宮が迎えに来てくれないかなぁ…。」 「……ナマエ?」 岩肌に手を付きながらノロノロと上っていた私の背後にはいつの間にかカミュがいたようで、怪訝そうに声を掛けてきた。 振り返ってカミュを見ると、街に行ってきたのか私服で、果物などが入った紙袋を片手で抱えていた。 「あぁ、カミュ。」 「…随分と赤い顔をして……熱があるのではないのか?」 失礼、と断りを入れてから彼は私の額に自分の額をコツリと当てた…!! ちょ、こういう時って掌で計るもんじゃないの!?カミュの顔が近すぎるっ! 「ちょ、カミュ…近い。」 「ああ、すまない。シベリアで氷河達が熱を出した時はこうやってまず計っていたものだから…。 しかし熱がずいぶん高いようだ…早く休まないと。」 カミュは再び『失礼』とだけ言って、私の肩に手を添えてから膝裏を掬うようにヒョイと持ち上げた。 …要するに『お姫様抱っこ』と言う代物である。 こんな事を今までされた事がない(と思う)から思わず赤面してしまう。 …もしかしたら聖闘士になりたての頃の訓練中とか戦いとかで気を失ったりした時にされてたかもしれないから『と思う』と言っただけです………って、こんな事解説してしまうくらいパニックしてる私を余所にカミュは足早に十二宮を上り始めたのだ。 ちなみに、カミュが持っていた紙袋は私が代わりに持っています。 当然の事ではあるが、通り抜ける宮ごとに何事かと声をかけられ、『ナマエが熱を出しているのだ』とカミュがそれはもう簡潔に説明してくれていた。 白羊宮では貴鬼が心配してくれた直後、『オイラが看病してあげるよ!』と何故か張り切りだしたので丁重に断り、金牛宮では『後で野菜を届けよう』と言ってくれたので、好意に甘える事にした。 双児宮には珍しく双子が揃っていて、私の姿を見るなりカノンは不機嫌そうに眉を顰め、サガに至っては何故か 滝 涙 を流して無理をさせてしまったと泣いていた。 若干だけど鬱陶しい気もする。 そんな思いを込めてカノンを見れば『………何も言うな』と何とも微妙な顔をして言っていた。 そして、双児宮を出た時にはお供が増えていた。 「カノン、どうしたの?」 「ほら、その袋を寄越せ。………お前、飯作るのも怠いだろう?」 「要するに、看病してくれるの?」 「…。」 「カミュもそのつもりなのだろう?お前ならナマエの熱を効率良く下げられるだろうしな。」 「氷河が修行に来たばかりの頃は慣れぬ気候によく熱を出したからな……。」 そう言ったカミュは遠い空を見つめ物思いに耽りだした。 恐らく……いや、確実に氷河に想いを馳せているだろう。 こちらもサガ同様に鬱陶しい。 「おい、氷河との思い出に浸る前にナマエを送り届けるのが先じゃないか? それかナマエを降ろせ。お前の涙がナマエに落ちているんだ。」 カノンが涙すら流し始めた しかし、その隙にカノンが私を抱き上げた。 「な……っ!?」 「カミュはいちいち律儀過ぎるんだ。ナマエをサッサと連れていかねばならんのだ、走るぞ!」 カノンはカミュに私が持っていたカミュの荷物と私の薬が入った袋を持たせると宣言通り走り出した。 そして、通る宮毎に何か尋ねられても『ナマエが熱を出した』とだけ言って走り去ってしまった。 ちなみに、デスマスクは怠そうな返事だけだったからきっと ま た 二日酔いだろう。 続く獅子宮は留守で(人馬宮にいた)シャカは瞑想中だった為スルー。 天秤宮の主は先日から五老峰に里帰り中の為スルー。 天蠍宮は敢えて無言で通り抜けた。だってどうせ寝てるだろうし、声を掛けてミロが起きてきた時に私のこの状態を見てどうなるかが安易に予想できたからだ。 |