聖戦後、甦った聖闘士達により復興を遂げた聖域のコロッセオでは、黄金聖闘士であるアイオロス・アイオリア兄弟と、カミュ、シュラが訓練生に指導をつけていた。
「おや?カノンがここに来るなんて珍しいな。」
奴らが気付かないうちにコロッセオの観客席に現れていた俺に気付いたアイオロスがにこやかに笑ってそう声を掛けてきたのだが、俺はそんなアイオロスへと、自分が感じた異変について話し出した。
「アイオロス、…僅かではあるが空間に歪みが生じているようなのだ。」
「何っ!?新たな敵が来ると言うのか!?」
「いや、敵かどうかは…………!?来るぞ!」
己の見解を話そうとしたその時、コロッセオの真上にポッカリと大きな黒い穴が現れて、その奥から何かが落ちて来るのが見えたのだ。
「うわぁぁ!!おーちーるーっ!!」
見りゃあ分かるだろ!と言うツッコミを思わず入れそうになったが、気持ちを切り換えて構えを取った。
だが、落ちて来た人物像がだんだん見えてきた時、その場にいた者全てが目を見開いた。
「お、女か!?」
ダンッッ!
落ちて来た女は、空中で体勢を変えると、両の足でしっかりと着地したのだ。
あの穴があった高さはかなりの高さだったにも関わらず怪我一つしていない事に、俺も他の聖闘士も驚きを隠せなかった。
着地した彼女が屈んでいた体を起こすと、彼女の容姿が分かり、その姿に不覚にもドキリとした。
オレンジ色のテンガロンハットの下からは背中の中ほどまであり緩くウェーブのかかった黒く艶やかな長い髪。
黒曜石のような輝きを放つ美しい瞳。
ビキニの上に羽織った黒い半袖のシャツが強風に煽られてはためき、彼女の白い背中に描かれた何か……海賊旗にも似たようなものがチラリと見え隠れしていた。
右腕にも『AS(Sに×)CE』とタトゥーが彫られている。
シャツと同じく黒いハーフパンツの片足の太股に近い部分にはピンクの小さなポーチが付いていて、華奢に見える体の割にゴツい形の黒いブーツを履いているそんな彼女の恰好は聖域ではまずお目に掛かれないものであり、同時に彼女の鳩尾付近にあるまるで何かに貫かれたかのような大きな丸い傷痕にその場にいた者は目が行ってしまった。
「うー、マルコめ…あんな強風が吹いてる中で暴れんなよなぁ……落ちちゃったじゃん……………………あ、こいつはどうも、訓練中お邪魔しました。」
彼女は辺りを見回して自分のいる場所を認識すると、自分を囲むように立っていた俺達に腰を90度に曲げてお辞儀をすると、アイオリアと俺はうっかりつられて軽く会釈をしてしまった。
「あ、どうも……じゃない!貴様、アテナの結界が張ってあるこの聖域にテレポートしてくるとは何者だ!?」
「………?私は、白ひげ海賊団二番隊副隊長、ポートガス・D・アン。
…って、聖域ってドコ?聞いたことない。」
「ここはギリシアだが。」
「はぁ!?聞いた事ねェし!てか、ここ新世界じゃないの!?ねぇ、グランドラインどこ!?知らない!?」
女─アン─は何やら焦った様子で、一番近くにいた俺に掴みかかった。
いきなり掴みかかられた俺は少々戸惑いつつも、彼女の問いに応えるべく口を開いた。
「新世界だか何だか知らんが、ここはギリシアにある聖域だ。
お前が先ほど言った新世界もグランドラインとか言う場所も、見た事もなければ聞いた事もない。」
「えぇぇ…じゃあ、ここって異世界?」
「何だか知らんが、コイツからは変わった小宇宙を感じる。アテナに害をなす輩かも知れんから、この俺が始末してくれる!」
アテナに最も忠実と名高いシュラが、なんの前触れもなくアンに攻撃を仕掛けようと彼女の前に移動し、アイオロスが『相手は女の子だ』と制止するのも聞かずに拳を振るった。
がしかし。
奴の拳は『ボウッ!』と言う音と共にアンの体を突き抜けただけに過ぎず、なんのダメージも与えられなかった。
何故ならば、彼女の体が炎となっているからである。
「「なにぃ!?」」
「あっぶねェー。いきなり拳を向けるなんてね。メラメラの実が現れてなかったら死んでたかも。」
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