「………っ」

嫌な夢を見た。反動で起こした体制のまま、ちらりととなりをうかがうと、かすかに寝息が聞こえる。ほっ、と息を吐いて汗を拭った。

どんな夢だったかはもう覚えていない。たまに見る怖い夢。怖くて寂しくて悲しくて。そんな負がつまった夢。その夢を見た晩は決まって眠れなくなる。手持ちたちを起こすのも忍びないし、迷惑かけるのは本意ではない。でも怖い。そんなことをぐるぐる考えている間に朝が来ることがほとんどだ。そのときはココア入れたりなんなりと動くのだけれど…今回は少しばかり違う。となりで暢気に寝息をたてる彼に内心ため息を吐いた。



遡ること、数時間前。やっとこの町にたどり着いたわたしたちだったのだけれど、ポケモンセンターは満室。そして生憎の雨。申し訳なさそうにぺこぺこ謝るジョーイさんに鬼にするなと告げたものの、手詰まりだ。そんなときに聞こえてきた神の声。



『俺の部屋、来る?』



…ではなく、トウヤの声。藁にもすがる思いで頼み込んで、寝かせてもらっていて、今に至る…と。


となりに彼がいる以上、あまり動き回るわけにはいかないし、起こしたら申し訳なさすぎる。ごろりと寝返りを打ってまた目を閉じた。




そしてまた眠れる…わけもなく。ましてや目を開けると、端整な彼の顔立ち。こんな状態で眠れるはずがない。わけもなく寂しくなって、ぎゅっと拳を握った。


「ルカ、」


ふ、と。握り締めた拳に温もりが触れて。ゆっくり目を開けると優しく微笑むトウヤの姿。あれ、おかしいな。トウヤってこんなにかっこよかったっけ。


「あ……。ごめ、起こした…?」


「ううん、違う」


「え、っと…」


何だろう、どきどきする。ふわっと笑ったトウヤは、わたしの手を握る力を少し強めてそのままわたしを引き寄せた。鼻にトウヤの胸板が当たって、女顔なトウヤも男なんだな…と再確認。


「ト、ウヤ!」


「何?」


ぎゅっと抱きしめられて、暖かい。ひとの温もりが、こんなに安心できるものだなんて…。最近は手持ちたちばっかりでひとに触れたのは久しぶりだっけ…。トウヤの吐息が首筋があたってこそばゆい。心臓の音が聞こえてきそうな近い距離に頭にくらくらした。


「ルカ、大丈夫だから寝な」


「え…?」


「俺がいてやるから。おやすみ、ルカ」


俺がいてやるから。それだけで、胸のつかえが取れた様にすうっと軽くなる。明日になったらちゃんとお礼言わなくちゃいけないなぁ、と思いつつもわたしはまどろみに身を任せた。






あとがき
執筆:20120521

柊 ましろ