▼ 神威と妙とカラフル
お腹すいた。見知らぬ少年から通りすがりにそう言われた。
「お腹がすいてるんですか」
年の頃は新八と同じくらいだろうか。どことなく誰かに似ている気がする。
「そー。おねーさん何か食べ物もってない?」
「食べ物?ああ・・・」
妙は手提げの中を探る。あいにく腹を満たすような物は入っていなかった。ならば、と妙は白い包みを手に取る。
「空腹の足しにはなりませんけれど・・・」
手のひらの上で広げられていく包み紙。少年は興味深そうに覗き込む。
「・・・宝石?」
「いえ、飴です」
「アメ」
「ええ」
普通のものより小粒な飴を一粒摘まみ、それを少年の手のひらに乗せる。
「甘いですよ」
もう一粒摘まみ、妙はそれをパクッと食べた。少年と目が合って、にこりと笑う。それにつられ、少年が飴を口に放り込んだ。
「・・・あ、ほんとだ。あまいね」
「美味しいでしょ」
「お腹一杯にはならないけどね」
少年がまた一粒摘まんで、ポイッと口に放り込む。
「でもあまい」
「甘いものはお好き?」
「好きかも。これいいね」
「良かった」
妙は少年の手に包み紙ごと飴を乗せ、「これ、差し上げます」と微笑んだ。
「やっぱりおねーさんに話しかけて良かったな」
人懐っこく表情を和らげた少年が包み紙を懐にしまう。
「いい匂いがしたんだよね。女っぽくない」
「あら、私は生まれた時から女ですよ」
「分かってる。おねーさん美人だから」
だから、これあげる。と少年が妙の手のひらに何かを乗せる。コロコロと転がる色とりどりの石。
「この前行った星で貰ったんだけど使い道なくてさ。女に似合う色をあげたら喜ぶって言われたけど、おねーさんは全部似合うから全部あげる」
「これ・・・まさか」
「じゃあね、アメありがと」
「こ、これ宝石じゃないですか」
慌てる妙をよそに、少年は軽い所作でひょいっと屋根の上へと登っていく。
「待って!こんな高価なもの貰えませんっ」
声が届いたのか、傘をさした少年は立ち止まり、妙を見下ろした。
「なんで?それが何かとか関係ないよ。価値なんて自分が決めるものじゃない?」
そして、懐から取り出した飴を口に放り込む。
「俺はこっちの方がいいってだけ。それと、それはおねーさんに似合うからってだけ。それだけだよ」
じゃあまたね、と少年は軽く手を振って飛ぶように去っていく。まるで風のような少年。残されたのは口の中に残る甘味と色とりどりの綺麗な宝石たち。
「またね、って言ってた・・・」
名前も知らない、どこの誰か、人間かさえも。また会えるのかなんて分からないけれど。
「・・・飴、忘れないようにしないと」
また会えた、その時のために。
2014/11/24
女に似合うのあげたら〜って兄貴に言ったのはもちろんあぶさんです。
姉上と兄貴はある意味一番価値観が違うので、後々揉めそうではあります(笑)
でも仲良くなりそうでもある、不思議な二人です。
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