2929アンケ記念! | ナノ



妙にとっては知らない女だった。しかし向こうは多少なりとも妙を知っているらしい。

「あなた、確かキャバ嬢やってるんでしょ」
「ええ。それがなにか?」
「銀さんの新しい女ってあなたのことよね?」

女の挑戦的な視線が妙に注がれる。妙は曖昧な笑みを浮かべながら内心溜息を吐いた。
またか、と思う。前からこの手の勘違いをされてしまうことが多々あって、妙もすっかり慣れてしまっていた。こういう時は何を言っても誤解はとけない。だから妙は肯定も否定もせず、ただ相手の話を聞くにだけにしている。

「キャバ嬢がどんな色仕掛けをして銀さんに取り入ったのかしらねえ」

ああ、また勘違いされている。しかも相手は敵意満々だ。妙を銀時の女だと思い込んでいるからだろう。

「どうせ銀さんが優しいからそこにつけ込んだんでしょ」
「優しい?」
「なによ」

思わず聞き返してしまい睨まれてしまった。妙は慌てて口をつぐむ。

「まあ、今の相手はあなたかもしれないけど。銀さんはみんなに優しいんだから勘違いしない方がいいわよ」

挑戦的な笑みを向けたかと思うと、女は言いたいことだけ言って去っていった。どうやら満足したらしい。妙はその背が見えなくなると、はあっと息をついた。

「めんどくさい」

自分がいつ、あの男の女になったのだろうか。この手の勘違いはどこから広まっていっているのか。どこかに元凶はあるはずだ。そうでなければこんなにも頻繁に勘違いされるわけがない。
妙はもう一度溜息を吐いたあと、女の去った方にある軒先に視線を向けた。隅の方に重ねて置かれたがらくたを見つめ、そこへゆっくりと近づいていく。

「隠れてるなんて卑怯ですよ」

確信はない。でもなんとなくわかるのだ。これで間違っていたら物に話しかけるただの痛い女だが。

「あれ?バレちゃってる?」

軒先の影から白髪頭が立ち上がる。

「あなた、私があのひとに声をかけられたところから見てたでしょ」
「いやーほら、女同士で話した方がいいときってあるじゃん」
「話すというより、一方的に罵られましたけど」

それも全く勘違いなことで、と妙が冷めた目で銀時を見据える。

「銀さん、いい加減どうにかして下さい」
「どうにかって、ねえ」
「銀さんが女性と揉めるのは全くかまいません。ただ、それに私を巻き込まないで下さい」
「揉めた覚えねえし。つーかあの女、何だって?」
「知らないですよ。あなたのこと優しいとか言ってるから夢でも見たんじゃないですか」

妙に絡んでくる女は口を揃えて言うのだ。銀さんは優しい、と。妙からすれば、それはなんの冗談かと問いかけたくなる。

「このひとのどこが優しいんだか」
「おまえ、俺の優しさ疑いすぎじゃね?」

外面がいいのだろうか。いや、そんな性格ではない。だが、女性達が銀時からの優しさを感じる何かがあったということだ。それは一体どういった優しさなのだろうか。

「そんなに色んな女性に優しくしてるなら、多少は付き合いのある私にも優しくして下さいな」
「俺の優しさ疑ったそばから要求してくんの早くね?」
「あーなんか喉が乾いちゃった。銀さーん、冷たいのひとつ」
「もう優しさ関係ねーな」

人通りのある場所で、男女があーだこーだと言い合っていれば人目をひく。恋愛関係には程遠い、歯に着せぬ言葉の応酬とくるくる変わる素の表情。ああ、またあの二人かと呆れるような微笑ましくなるような、そう思われる関係。それこそが銀時に惚れてる女に絡まれる一番の原因だと、妙が知るのはまだ遠い。



貴方に吐(つ)かされた溜め息の分だけどうぞ幸せにしてください
2017/06/04

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