※「追伸:そう言えばアナタが大好きです。」の後日談
「台風が来るんだとよ」
花がふるりと揺れている。
銀時自身がここを訪れるのは一ヶ月ぶりだが、その時も今も、瑞々しい花が出迎えてくれた。
「わりとでかいやつらしいぜ。テレビで言ってた」
銀時の頬を掠める風はまだ柔らかい。これが徐々に強くなっていくのだろうか。
「危ねえからここに在るもん、一旦片付けとくわ。新八らは用事があって今日は来れねえから。俺が代わりにな」
花の他にも置いてある物が少々。それを手桶の中に突っ込んでいく。
「花は持って帰るぞ。このまま置いてたら散らばっちまうだろ」
美しく咲いた花弁。名など知らないのに、綺麗だと、銀時ですら素直にそう思えるような。
「新八に渡しとくから、家に置いてもらってたら大丈夫だろ」
手際よく新聞紙に包み、それをまた手桶に差した。
そこにはもう何もなくて。目の前の石をじっと見つめる。
銀時以外、誰もいなかった。だから素直に言葉が出てくるのだろうか。
「───早いよな」
ふわりと風が通り抜けた。
「もう夏だってさ。マジではえーわ」
季節が変わるごとに飾られている花も変わる。
「最近時間が経つのが早くてよォ、再来年くらいにジジィになってんじゃねえかって思うわ」
銀時の髪が揺れている。風はまだ優しい。
「まあ、俺がジジィになった時は新八も神楽もジジィとババアになってるだろうけどな。お前が知ってるやつみんなジジィとババアだぜ。加齢臭半端ねえわ」
銀時はふっと笑い、そして、目の前に居るであろう彼女を見つめる。
「あの手紙さ、返事しなくていーわけ?」
風が草木を揺らす。
「今だと宛先不明で戻ってきちまうからさ、もうちょっと待ってろよ」
銀時の横顔から感情は伺えない。
「時間経つの早えからすぐだぜ。夏もあっという間に終わるんだろうな」
淡々と紡がれるのに、その声がどうして優しく聴こえるのだろうか。
「で、すぐ秋になって・・・冬になって、」
そこで銀時は言葉を止め、空を仰いだ。青色が瞳に映る。それを遮るように目を閉じた。
暗闇の中、何が見えたのだろうか。
深く長く息を吐いたあと、銀時はゆっくりと立ち上がった。
「また来るわ」
少し笑って。
僅かに赤くなった目尻を、風が優しく撫でて消えた。
ある夏の日
2015/07/30