※現代学生パラレル
※「人生最大の汚点」と同じ場所、同じ時間軸です
※妙ちゃん目線
優しい人だと思っていた。
妙は呆然と男を見上げる。彼の手には妙が大切にしているキーホルダー。
「返してほしいなら取りにおいで」
落としたソレを拾ってくれたのは、たまに会う他校の彼。
優しい人だと思っていた。見かけるたびに違う女の人を連れ、女誑しで有名だと誰かから訊いた。初めは少し警戒したが、南戸が妙にそんな目を向けることはなかった。
「学校で待ってるよ」
大切な人からのプレゼントだから見つかって良かったと伝えたとき、彼はほんの少しだけ眉を顰めた。
「俺の学校、男子校だけどな」
今までの彼は嘘だったのだろうか。何が気に入らないか知らないが、今、妙を困らせていることには変わりない。
真意はどうであれ、妙のやることは一つだ。
遠ざかった背中を見つめて呟く。
「行くわよ、絶対に」
そこはある意味有名な高校だった。学力が高いとか制服が可愛いとか、そういうことではない。
「・・・ここよね」
周りからの視線が痛い。校門から出てくるのは見事に男ばかりだ。着崩された制服にカラフルな髪の色。普段あまり関わらないようなタイプの男達がこちらを見ている。珍しいのだろうか。
「うわっ女じゃん!」
校門に近づいたところで大きな声が上がった。何事かと思いそちらを見やればバチッと目が合う。知らない顔だ。驚いた顔が笑みに変わった男はここの生徒らしい。
「やば、ちょー美人!!」
「あ、あの」
「おーいどーしたー・・・あれ?女?」
「女!?やべっマジじゃん!!すげーかわいい!!」
「な?俺が最初にこの子見つけたんだぜ?」
「ばーか自分にもんみてえに言うなよ」
全員知らない顔だが、なぜか妙の傍に集まってくる。何事か言い合い、口々に話しかけてくるが悪い人達ではなさそうだ。
「んで、誰かに用でもあんの?」
軽そうな奴らの中で比較的まともそうな男が訊ねてきた。この人なら話が通じそうだと妙は頷く。
「あの、取り返したい物があるんです」
ん?と、男たちの顔に疑問符が浮かぶ。妙の返答が意外だったらしい。しかしすぐに一人の男が明るく頷いた。
「あれだろ?彼氏を他の女に取られたんだろ?」
「はい?」
「あーはいはい、だから取り返しにきたわけか」
「修羅場じゃん!楽しそう!」
どうも何か勘違いしてるようだが特に訂正はしない。そんなことよりも周りが騒がしくなってきたことの方が気になっていた。やはり目立っているようだ。
「あの、他校生は中に入れるんでしょうか」
「別にいいんじゃない?でも女は目立つ思うけど」
この学校には他校生がよく乗り込んでくるらしく、中に入る分には構わないらしい。だがここは男子校。さすがに女が入ってきたことはないそうだ。しかしここまで来て帰る気などさらさらない。
「ありがとうございました。じゃあ私はこれで」
これ以上騒がしくなる前に用件を済ましてしまおうと、妙は足早に中へと進んで行った。取り敢えず一旦騒ぎを鎮めるために人気のない場所を選んで進んでいく。妙の向かう方向を見た生徒達がより一層騒ぎ始めたことに気づいてはいなかった。
「ここ、どこだろう」
あんなにも騒がしかったのに、ここにはその喧騒が全くない。なるべく人に出会わないように歩いていたらこんな場所まで来てしまった。
校舎から離れた場所。横は体育館だが、現在工事のため使用禁止らしい。中にも外にも人気はない。そういえば南戸のクラスを訊いてなかったことにようやく思い至った。学校に来ることばかり考えていて当たり前のことが飛んでしまっていたのだ。先程の男達に訊いてみれば良かったと後悔するが後の祭り。とにかくもう一度校舎の方に戻ろうと踵を返しかけたところで、妙は反射的に視線を上に向けた。
「誰かいるの」
廃材が積み重なった場所を見上げる。影になって見えにくいが、確かに何かの気配がしたのだ。嫌な感じがする。
「へえ。すごいね」
ふっと何かが動いた。少しずつ影が近付いて来る。
「なんで分かったの?俺がアンタを見てるって」
風になびいたのは桃色の髪。濁りのない、つるりとした瞳が妙をじいっと見つめている。
感情はなく、ただ見ているだけ。
「あ、近くで見るほうが美人だね」
口調も表情も明るく和やかだ。なのに妙は警戒を解くことができない。
「こっちにおいでよ。美味しいお菓子があるよ。ここに何か用事?手伝ってあげようか」
人懐っこい声に心を許しそうになる。しかし、妙はゆっくりと首を振った。
「何もいりません。すぐにここを離れますので」
「えーいいじゃん。一緒に遊ぼ。みんな逃げちゃって退屈なんだ」
「私も逃げますよ。だって貴方、人を殴りたくてたまらないって顔をしているから」
唐突に思い出した。校門で別れた男達に忠告されたこと。
『ピンクの髪には気をつけろ』
とは、きっとこの人のことなのだ。
「なんだ。バレちゃった?」
少年が面白いものでも見るように目を細める。
「女は相手しないけど、キミとは一回ヤってみたいかも」
「喧嘩なんてしませんよ」
「えー。残念だな。でもキミ何かやってるでしょ?俺を見て構えたし」
「ええ、まあ」
妙に気を許したのか、少年の雰囲気が変わっていた。殺気混じりだった気配も消え、どこからどうみても普通の高校生に見える。
「そろそろ阿伏兎達を狩りに行こうかと思ってたけど、ここに居て良かったなあ」
満足げに伸びをする少年に首を傾げる。狩り?鬼ごっこみたいなものだろうか。
「ねえ、ほんとに美味しいお菓子があるからさ、こっちおいでよ」
「いえ、私は探してる人がいて・・・」
「誰?」
「あの・・・南戸さんってご存知ですか」
「うーん。特徴は?」
「そうですね・・・噂では色んな女の人ととても仲が良いとか・・・」
南戸に関して耳にする噂は全て女関係といっても過言ではない。見た目を説明するよりも、誰もが知っている噂の方が分かりやすいと思ったのだ。
「ああ分かった。アイツね。連絡できないの?」
「連絡先は交換してないので・・・」
「ここに呼んであげようか?」
「ここにですか?」
「キミのせいで向こうは騒ぎになってるよ」
予想以上に妙の訪問はインパクトがあったらしい。これ以上騒ぎを大きくするのは不本意だ。
「それじゃあ、お願いします」
「いいよー。その代わり、頼みがあるんだけど」
携帯を取り出した神威がそれを妙に向ける。
「キミの番号教えて?」
その軽い物言いに、妙はふふっと笑って頷いた。
最悪な出会いのインパクトは絶大
2015/07/06