※色々文や夏の日に置いてありますアニマル耳妙設定です。食べたくなります。
「俺ってお妙の中で何なの。食い物?」
そう言って、銀時は甘辛いたれに包まれた団子にがぶりと食いついた。みたらし団子ってベタベタすっけど最高だよな、とヘラヘラした後で言ったものだから、妙は意味を上手く捉えられない。
「銀さんは銀さんだと思ってますけど」
「俺を食いたいっつーじゃん。あれって飯を食うみたいな感じかってこと」
「ああ、そういう」
ようやく質問の意図を掴めたらしい。妙は小首を傾げながら緩やかに微笑んだ。
「さあ、どうでしょうか」
「さあって」
「考えたことないですし」
「そこ大事じゃね?」
「だって銀さん、私に食べられてくださいませんし。だから分かりませんよ」
「あーそう。俺のせいか。ごめんねー」
気持ちのこもっていない謝罪をするりと吐き出して、また柔かな団子にかぶりつく。こんなふうにかぶりつきたいと目の前の女は思っているのだ。団子にではなく、銀時に。
急な夕立にあい雨宿りしていたところ、通りかかった妙に志村家へと誘われた。おやつがあると言われれば、銀時に断る理由はない。妙の耳がアレなままなことには目をつぶった。
通された家はひっそりと静かで、冷たいお茶とみたらし団子が銀時の前に置かれる。外は変わらずの雨。なのに蒸し暑くなく部屋の中は涼やかだ。もう夏も終わるのかもしれない。
「つーかお前普通に飯食ってるよな」
「三食きちんと食べるのは健康の基本ですよ」
「健康とかどうでもいいけど、そんなら俺食わなくてもよくね?」
会うたびに「貴方が食べたいの」と迫られる身にもなってほしい。据え膳食わぬわ何とやら、これがそういう意味でのお誘いならぺろっと食べられてやるのに。なんなら自分も妙をぺろっと食べ返してやりたい。もちろんそういう意味で。
「お前は俺を食わなかったら死ぬのかよ」
獣みたいな耳をはやした女の言う「食べたい」は、正真正銘「食べたい」という意味らしい。つまり食欲。
妙は不思議そうに「死ぬ?」と小さく口にして、ふふっと柔らかく笑った。
「死なないと思いますよ。現に私は元気ですし」
「じゃあ俺にああいうこと言う必要ないよな」
笑みを引っ込めた妙は湯飲みに手を伸ばす銀時を目で追う。銀時を最後に味わったのはいつだったろうか。銀時の皮膚には舐めて噛んだ痕しか残らなかったが、それでも妙は嬉しかった。
「銀さんを見てると食べたくてたまらなくなるんです。理由なんてありません」
妙の瞳の奥がきゅうっと細くなる。獣の瞳だ。
「我慢しようと思えばできます。今もしてます。でも本当は、銀さんが欲しくてたまりません。食べ物だなんて思ってませんが、食べさせてもらえるなら、貴方の全部が欲しいです」
赤い唇が艶めかしく動く。その奥にある舌と歯で銀時を味わいたいと妙は言う。
「それって性欲じゃね」
銀時は素知らぬ顔で言い放ち、食べ終えた団子の串をぽいっと投げた。
「性欲?」
「俺には銀さんとセックスしたいですって言ってるように聞こえるんですけど」
「銀さんを食べたいとは言いましたけど、そんなことを言ったつもりはありません」
「ああセックスつったのが気に入らねえのか。俺とにゃんにゃんしたいって言ってるように聞こえる、でいい?」
「意味が分かりません」
「お前さあ、俺のこと好きだろ」
視線がばちっと絡まった。銀時はいつものヤル気のない目で、妙は怪訝なものを見る目で。
「普通はな、ああいう台詞は落としたい相手に言うもんだぜ。まあ今のお前は普通じゃねえけど」
「でも私は本当に銀さんを食べたいだけで」
「俺に歯をたてて舌で舐めて味わいたいんだろ?俺もお前にそうしたいけどいい?」
「私に、ですか」
「俺がお前に言ってるのは完全に性欲だけどな」
銀時は頬杖をつき、ぱちぱちと瞬きを繰り返す妙を眺めた。妙の白い肌が徐々に染まっていき、赤い唇をきゅっと噛んだのを見て、銀時は内心笑ってしまう。これだから無自覚な女は質が悪い。自分がどれほど男を煽っているのか分かっていないから、平気であんな事を言ってしまえるのだ。
「俺を食っていいから、頼むからお前を食わせてよ」
もちろん性欲って意味で、と銀時が念をおすように付け足せば、妙の肌が更に赤く染まっていった。
愛のためなら味覚だって変わる
2014/09/11