2929アンケ記念! | ナノ



近藤はゆっくりと膝をついた。そのまま仰向けにごろりと倒れる。横たえた身体が熱い。濡れた地面も、降り注ぐ雨も気にならなかった。
雨に濡れて額にかかった前髪を掻き上げ、疲れたと息を吐く。顔に落ちてくる雨が、何もかも洗い流してくれたらいいと思った。

パシャッと音がする。すぐに刀の柄を掴み、身体を起こそうとした近藤の耳に、大切な人の声が聞こえた。

「近藤さんっ!」

走ってくる音がする。一瞬、なんて幸せなのだろうと思った。大好きなあの人が自分の名を呼び、自分を心配し走り寄ってくれる。なんて、幸せなのだろうと。

「お妙さん」

近藤が上半身を起こしたのと、妙が滑り込むように近藤の傍らに膝をついたのはほぼ同時だった。

「俺なら大丈夫ですよ」

すぐ近くに妙の顔があった。近藤の顔を見て、ハッと目を見開く。そんな顔すら綺麗だと思った。

「でも血が・・・」

妙は近藤の額に触れようとして、躊躇する。傷に障るとでも思ったのだろうか。しかし傷口が気になるのだろう、額に落ちた前髪を上げようと再び手を伸ばす。

「ああ、大丈夫です」

近藤は顔を引いて、妙の手を避ける。

「でも、」
「大丈夫なんです」

少し困ったような笑顔を浮かべ、目を伏せる。

「これ、俺の血じゃないから」

地面に点々と続く血の痕。雨に流れてしまえばいいのに、赤く滲んだ染みが道の先に伸びている。あの先に在るものを知ったら、妙はどんな顔をして、どんな目で近藤を見るのだろうか。

「そうですか・・・」

妙はふっと目を伏せた。揺れる睫毛が綺麗だ。

「ではもう大丈夫のようですね」

近藤に一度も視線を向けぬまま、妙はそう言って立ち上がった。傍から去っていく妙を止める言葉も術も近藤は知らない。こうなって当たり前だと、ただ受け入れるしかなった。
自分の手を見る。皮膚に血がこびりついてとれやしない。指先が少し削れていた。肉ごと斬られた時の名残だ。この指の怪我を妙に心配された時、近藤は笑って誤魔化すことしかできなかった。近藤の指を削った相手は、近藤に命を削り取られていたから。
ぼんやりと頭を垂れていた近藤の元に近付く足音。

「トシか。もう終わったよ」

終わってしまった。傍に居るだけでいいと願ったのはいつだったか。それすら叶うことはなかったけれど。

「土方さんならいらっしゃいませんよ」

近藤の周りだけ雨が降っていない。弾かれたように上げた視線の先に、自分に傘をさしかける妙の姿があった。

「終わったのなら帰りましょう」

妙がふわりと微笑む。
自分はきっとまだ血まみれで、隣に並ぶ資格すらないだろうけれど。
また妙が笑ってくれた。
それだけでいいと思った。


君を選ばせてくれてありがとう
2014/08/11

こういう近藤さんと姉上もいいなと。
近藤さんは姉上のどこがそんなに好きなんだろうと考えている時に浮かんだ光景を文にしてみました。

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