※現代パラレル
「ホストの方って、もっとチャラいと思ってました」
深夜の道路は静かで、どことなく空気が薄い。さらりとした雨音が傘を濡らす。同じ傘の下にいると、まるで二人だけの世界のようだった。
「チャラいか。あーでもどうかね、結構テキトーよオレ」
「そうなんですか?でも軽くはないですよね」
「ただのホストをそんなに信用すんなって」
無条件に寄せられる信頼に思わず苦笑する。軽いとはどの程度を言うのだろうか。可愛らしい頭の中を覗いてみたい。きっと自分の思っているモノとは違うだろうけど。
「まあ、めんどくせーのが苦手だから枕営業はしねえな」
「枕・・・?」
「体で惚れさせるってこと。分かる?」
横目で見やれば、妙が気まずそうに俯いていた。やはりそこまでは思っていなかったか。そうだろうと思っていながら言った自分は大概意地が悪い。
「そーいう世界もあるってこった。女子高生には想像つかねえだろうけど」
想像ついたら逆に怖いし。と軽く笑えば、固くなっていた妙の表情がようやく柔らかなものに変わった。
「夏っていいよな」
傘の外に見える雨空を見上げる。
「さっさと夜が明けて、クソみたいなこと全部忘れられる」
「・・・今のお仕事は、ツラいですか」
「さあてね。考えたこともねえや」
眠たげな目は太陽が天辺にきたって変わらない。昼夜が逆転した仕事だからではなく、どんな仕事してたって自分はこうなのだろう。じゃあ考えるだけ無駄。面倒なことは苦手だ。
「仕事中に酒飲めるのは気に入ってっけどな」
ちょっと持って、と妙に傘を渡し、酒と香水くさいスーツを探る。
「でも酒飲むと甘いもんが欲しくなんだよね。店にあるヤツじゃなくて、もっと甘ったるいやつ」
こういうのとかな、と包み紙から取り出した飴を口の中に放りこんだ。酒くさい口内に甘味が染み込んでいくのが嬉しい。
「甘党なんですか?」
「3食甘いのでもいいくらい」
「本当に?すごいなあ」
妙がふわっと笑った。空気が軽やかに震える。雨の音よりもささやかな声。
「いる?」
舌の上に乗っけた飴を妙に見せた。
「飴ですか?」
小首を傾げた妙が訊ねる。
「そ、あーんして」
妙の返事を待たずに、男は首の後ろに腕を回しぐっと顔を近付けた。
片手を傘を持った妙は瞬時に抵抗できず、香水の匂いがする腕の中に捕まってしまう。
「酒飲むと甘ったるいのが欲しくなんだよね」
驚いて反応できない妙に、金髪の男はへらっと笑いかける。
「あんまオレのこと、信用しない方がいいかもよ」
雨の日に出会ったのだって、偶然じゃないのかもしれない。
人の話は聞きましょう。
(もう何回も言いました)
2014/08/11
ホスト金さんってチャラくて好きだ。チャラくしてもおかしくないキャラで好きだ。