2929アンケ記念! | ナノ



妙は手元にある雑誌に目を落とす。ほとんどの記事が「過剰な妄想」であることで有名なこの雑誌を、どうやら店から持って帰っていたらしい。酔いの回った頭で見れば楽しい話題も、今では何が面白かったのかと思ってしまう。
そのなかで一つの記事に目が止まった。大袈裟なあおり文は見開きにひろがって、まるでこれが本当であるかのように書かれている。

「おーい、誰かいねーの」

玄関から呼ぶ声。その気の抜けた声に、なぜか悪戯心が沸き起こってしまった。
いつもなら返事をして向かうのだが、妙は何も言わずわざとらしく音をたて立ち上がる。そして慌てふためいているとばかりに息を切らせて向かった。

「銀さん!!!」

はあはあと肩を揺らし、玄関の上がり口に腰かける銀時に駆け寄る。

「なんだよ急に」

少々驚いている銀時の前に座り込んだ妙は、手に持った雑誌を差し出した。

「こっ、これ見て下さい!!大変なんです!!」
「はあ?」

面倒そうに受け取った雑誌に目を向ける銀時。そこにある文字をゆっくりと読み上げる。

「えーなんだって、あの予言は真実だった。地球滅亡まで、あと一週間?」
「この雑誌、先週の金曜日発売なんです!その一週間後・・・つまり明日!明日地球が滅亡してしまうんです!!」
「マジかよ時間ねーじゃん!!明日か分かった、お妙今すぐ結婚して、今から準備すっから」
「はいっ!!すぐに結婚の準備を・・・結婚?」
「ほらほら急がねえと間に合わねえぞ!こんなときに新八はどこだよ、あっお前の親には仏壇に報告でいいよな?今からだと墓参り行く時間はねえし、おまえらの兄貴分にも仏壇から報告だな。俺の方はババアにまず言ってから神楽と定春に報告回りさせっから。お妙も色々準備があんだろ?あー、二時間後にここ。ここで祝言あげるからちゃんと帰って来いよ。俺はババアに言って飯の準備してもらうわ。あっ、挨拶が先か。時間がねえな。結婚して夫婦になって次の日地球滅亡かー。空気読んで地球頑張ってくんねえかな。ま、仕方ねえけど」

開いた口が塞がらないとはこのことだろう。何やら喋り続ける銀時を、妙はぽかんと眺めていた。何度か口を挟もうとしたのだが、どうにも話が飛びすぎてついていけない。
この人は何を言っているのだろうか。
結婚する?誰と誰が?

「じゃ、とりあえずお邪魔しまーす」

ぼんやりしている妙の耳に気の抜けた声がするりと入ってきた。通りすぎていこうとする銀時の腕を掴んで引き留める。

「あの、」
「そうそう、土産あるからお茶淹れてくれよ」
「え、あ、ありがとうございます。・・・あら、蕎麦饅頭ですか」
「貰いもんだよ。家で食っても良かったけど、まあ差し入れ?日頃の感謝っつーことで。その代わり」
「お返しにお茶ですね。いいですよ。今から準備します」
「話が早いね」
「神楽ちゃんの分はよけておきますから持って帰って下さいね。全部食べちゃ駄目ですよ」
「へーへー。そういやあ新八は?」
「新ちゃん出かけてて・・・ん?」
「なに」
「なんの話してましたっけ?」
「地球滅亡じゃね」

そうだった。妙は当初の目的を思い出す。
銀時を驚かせるため、「地球滅亡」などという雑誌のネタ記事を大袈裟に伝えたのだ。はっきり言って騙せるとは思っていなかった。ただ、少しは銀時が狼狽えたりするかもしれないと、そういう銀時が見てみたいなという悪戯心でやっただけ。すぐにバレる嘘、子どもじみた冗談。いきなり明日地球滅亡だなんて、一体誰が信じるのだろうか。妙はそう思っていた。


腕を掴まれたまま、じっと妙を見下ろす銀時。その表情には焦りも驚きもない。いつも通りのヤル気のない坂田銀時だ。

「銀さん、明日」
「地球滅亡すんだろ」

当たり前のように言われて妙は混乱する。まさかこの人は本当に信じているのだろうか。
そして、気になることは他にもある。

「銀さん結婚なさるんですか」
「地球滅亡すっからな」

銀時は当たり前のように肯定した。言い間違いでも聞き間違いでもない。本気だったのだ。
結婚は一人ではできない。相手が必要だ。つまり銀時には相手がいるということ。しかしここで妙は思案する。銀時に恋人がいるなど聞いたことがなかった。わざわざ紹介されるような間柄ではないから銀時から聞いていないのは分かるが、ある意味かぶき町の有名人である銀時に結婚を考える相手がいるならば、何かしら耳に入ってくるのではないだろうか。
どちらにしろ、銀時が信じているのなら誤解を解かなければならない。結婚するならば尚更だ。誰かは分からないが、銀時の相手にも迷惑がかかってしまう。

「銀さん、嘘です」
「なにが」
「すみません、地球は滅亡しません」

申し訳なくてたまらず、妙は情けなく眉を下げた。もう少しで色々な人に迷惑をかけるところだった。

「銀さんごめんなさい。結婚だなんて、そんな大事になるとは思わなくて」

手を離し、そっと頭を下げた。軽い冗談でも相手に通じなければただの嫌がらせだ。

「なに落ち込んでんの」

妙の頭にぽん、と手のひらが落ちてくる。大きな手のひらは硬くて温かい。

「だいたい大事ってなんだよ。なんかあったっけ」
「今すぐ結婚なさるって」
「あーそれか」

あやすようにぽんぽんと撫でて、銀時は軽く笑った。

「結婚な。しよっか」

明るい調子で言われた台詞は、妙の理解を越えていた。意味が分からず銀時を見やるが、銀時はそれ以上何も言わない。逆に妙の反応を待っているようで、それが妙を焦らせた。

「えっと、その、しよっかって結婚をですよね。それは私じゃなくて結婚したい相手の方に言わないと伝わらないと思うのですが・・・」

普段なら全く働かない部分の思考が動き始める。冷静ではないからこそ、そんなふうに考えることができたのかもしれない。
銀時が結婚する。ならば相手が必要で、銀時はあのときなんて言っていたのだろう。誰に結婚してと言って、誰と結婚するつもりだったのか───

「・・・・私?」
「伝わってるじゃん」



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2013/1/21

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