2929アンケ記念! | ナノ



「俺らっていつすんの」

綺麗な姿勢で洗濯物をたたんでいる女の後ろ頭に、今朝から思っていた言葉を投げかけてみる。

「呼びましたか?」

振り返って俺を見る女の名前は妙。俺の嫁さん。

「いつすんの」
「いつ・・・あ、お鍋ですか?それならみんなが揃った日にしましょうか。神楽ちゃんがね、またみんなで食べたいって言ってましたから」

にこりと微笑む嫁さんは大層可愛らしい。ただ、頭の中も可愛いままじゃあ俺が困る。

「夕方だろ、アイツらが戻ってくんの」

町内子供会の集まりに参加している二人と一匹。朝から出かけていて、晩飯前に帰って来るらしい。つまり夕方までは二人きりだ。

「いつすんの」
「お鍋じゃないの?」

小首を傾げた妙に、俺は淡々と話す。

「そろそろ嫁さんを抱きたいんですけど」

一拍置いたあと、妙の顔色がパッと変わった。顔から耳から首筋まで赤い。俺が何を尋ねていたのか、ようやく理解したらしい。

「するって、そちらの・・・」
「そ。そっち」

他にどっちがあるんだよと思わないでもないが、そういうことには疎い嫁さんだから思い付かないのかもしれない。
無言のまま、再び洗濯物をたたみ始めた妙。俺は何も言わず、寝転んだまま頬杖をついてその姿を眺める。
妙は断らない。結局は俺に甘いから、頼めばきっと頷いてくれる。でも俺は、妙の方から言ってほしいんだよな。いつもいつも俺からで、俺ばかりがやりたいみてえじゃねえか。

「あの、銀さん」
「なんですかー」

最後の一枚までたたみ終わり、手持ちぶさたで間がもたない妙は俺に助けを求めてくる。ここで俺が一押しすれば、妙はころりと落ちてくれる。そんな妙に俺もころりと落ちてしまう。いつもはそう。でも今日は駄目。助けてあげねえよ。

「銀さん」
「聞こえてるって。なんか用?言いたいことあんなら言って」

妙は俺の方を見て、すぐに目を逸らした。嫌がってないことくらい分かってる。恥ずかしくて口にだせないだけってことも分かるよ。

「今日はお妙に誘われてえんですけど」

欲しがってるのは俺だけじゃねえって思わせてくんねえかな。俺だけがお前を好きなんじゃねえかって、たまに思うんだよ。お前には言わねえけど。


妙が俺を見る。泣いてるのかと思うくらい濡れた瞳がきらりと光った。
瞬きをすれば涙が零れるのかもしれない。

「銀さん」

睫毛が震え、瞼が落ちる。

「たくさん抱きしめてほしいです」

零れたのは涙じゃなくて、俺にしか見せない、俺の好きな笑いがお。あーあ、やっぱ俺はこいつに勝てねえわ。いい歳して年下の嫁さんに、ころりころりと転がされてる。マジで餓鬼かっつーの。幸せすぎる。

「それに誘われていい?」

男は性欲で女を抱くと思っていたし実際そうだったが今は違う。
妙を抱くのは少し怖くて、たくさん幸せ。
差し出した手を素直に握ってくれたから、俺は嬉しくて目を細める。うっすらとできた目尻のシワに妙がそっと触れて、また幸せそうに笑ってくれた。



ないものねだりは思い込み
2013/1/14

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