2929アンケ記念! | ナノ



※前に日記で書いた坂田とお妙さんの会話文がベースとなってますが、これだけでも読めます
※恋愛未満の二人です











「眠い?」
「ええ。とてつもなく眠いんです」

妙が目元をこするのを銀時は訝しげに眺めた。確かにいつもと様子が違う。

「夜の仕事だからじゃね」
「それもあるかもしれませんが、でもそういう感じでもないんですよ」
「じゃあどんな感じ」

銀時が平坦に返すと、妙が少し考えるように視線をさまよわせた。

「そう、ですね。欲がそれしかないって感じですね」

欲?、と銀時は思わず聞き返す。そのような単語は妙に似合わないように思えたからだ。しかし妙は頷き肯定する。

「欲ですよ銀さん。私、欲しいものがたくさんあったはずなのに、今は寝ることしか欲しくないんです」
「そーいうことか」

はあ、と銀時は息を吐く。
「欲」とは、なかなか勘違いしがいのある言葉だと思う。
寝ることが欲と言う妙。それしか欲しくないと。
意味を違えばとんでもない誘い文句だということに本人は気付いているのだろうか。多分気付いていない。気付いていたとしたら、異性である銀時にそんな言葉を投げ掛けるはずがない。誰もいない、二人きりの密室で。そんなこと、いくら鉄壁の処女だって分かることだ。
めんどくせえ女。
銀時は炬燵に頬杖つき、薄目で妙を眺めた。

「また欠伸」
「あら御免なさい」

銀時の呆れた声に謝罪しながらも妙はまた一つ欠伸をこぼす。

「そんなに眠てえの」
「はい。まだお昼前なんですけどね、お天気が良いと余計に眠くなるんです」

妙は欠伸を噛み殺しながら庭に目をやる。

「庭の掃除も洗濯も終わってますし家の掃除は朝やってますから、眠気覚ましに何かしようにもね」

そう言って、目元に手をあてながらゆるりと首を振った。眠気覚ましのつもりだろうか、しかし何の役にもたっていないことは銀時にも分かる。

「・・・前にさぁ、人間の欲は三つあるって言ったろ。覚えてるか」
「ええ」
「食べる、寝る、」
「はい」
「で、セックスする」
「私に一番最後の欲はありませんよ」
「普通はあんだよ」
「嫁入り前ですから。なくて当たり前じゃありませんか?」
「いちいちうるせーな」
「正論ですよ」
「そうかいそうかい。じゃあお前は水風船でも作って遊んでろ」
「あら、楽しそう」
「欲しいの?余ってっからやるよ」
「風船?」
「高級なやつな」
「まあ、ありがとうございます。今度新ちゃんに持たせて下さい」
「ん、ああ、新八が違う使い方しなきゃいいけど。まあ、大丈夫だろ。相手いねーし」

なんとなく噛み合わない会話を交わし、銀時は片眉を上げて妙が淹れてくれたお茶に口をつけた。丁度良い濃さの温かな緑茶に喉をならす。
妙という女の料理の腕は最悪だ。しかし茶を淹れることに関しては上手いと形容できる。
こうまで出来が違うのは逆に器用だなと、銀時は鼻で笑った。

「食欲性欲睡眠欲、食欲性欲睡眠欲、」
「なにそれ。呪文かよ」
「食欲性欲睡眠欲……うん、そうね。そうだわ」
「そんなことしてもお前のまな板は膨らまねえから。諦めろって」
「食欲を満たしましょう。三つのうちのどれかを満たせばいいんでしょ」

銀時の揶揄を無視した妙は、ぱんっと手を打ち晴れやかに微笑んだ。

「卵焼きを作りますね。銀さんも食べていかれるでしょう?」

疑問符をつけてはいるが拒否権などないことを銀時は嫌というほど知っている。

「・・・食べたら余計に眠くなんじゃねーの」

拒否権がないのなら、妙の意識を食から反らすために言葉を紡ぐ。魂胆を悟られないように平静を装い、軽くなっていた湯飲みを持ち上げた。

「腹も減ってねーし。わざわざダークマター作る必要ねえだろ」

言いながら僅かに残ったお茶を眺めていると名を呼ばれた。顔を向ければ手を差し出している妙と目が合う。その手に器を渡すと、湯飲みに新しい熱い緑茶が注がれた。

「メシ作るよりもさあー性欲満たす方が早くね。俺がケツでも触ってやろーか」
「そういうのはね銀さん、私じゃなくて恋人にでも言って下さいな」

はい、と銀時の前に湯飲みを置く。

「いたらこんな処で時間潰してねえっつーの。今頃彼女のケツ触りまくって、高級な風船使って遊んでるからね」
「あら、まあ」

銀時の台詞に気のない口調で返し、妙は壁に掛けてある時計に目を向けた。先程見たときから時間は全く進んでいない。昼寝には早い時刻。
しかし目蓋は妙の意思とは関係なく、徐々に瞳を隠していく。

「あーもう。もういいわ」
「なんだよ急に」

銀時が眉根を寄せる。そんな銀時はお構いなしで、妙は結い上げた髪をさっと解いた。流れ落ちた髪がさらりさらりと鎖骨の辺りで揺れる。

「ねえ銀さん。防犯と誰か来たときのために少しここに居て下さいな。どうせ暇でしょう?」

手にあった簪を炬燵の上に置いて。無表情で自分を眺めている銀時を見やり、妙は表情を綻ばせた。

「もう寝ちゃいます」

それからはあっという間。
銀時の返答を待たぬまま(元より返答など待っていなかったようだが)、妙は炬燵に横になり、そのまますやすやと寝息をたてはじめたのだ。

「・・・結局寝んのかよ」

銀時はぼそりと呟いた。
自分が思った通りの行動しかしない超自己中女なのだと知っていたのに。なにが相談だ。相談されたと思って助言なんかした自分が馬鹿だった。
このまま無視して帰ってしまおうかとも思ったが、銀時はなんとなく腰を上げられなくて、なんとなく目の前にあった湯飲みを掴んだ。
じんわりと熱くなる指先。
程良く色付いた液体。
湯飲みのふちに口をつけ、ゆっくりと傾ける。

「―――これが美味くなけりゃあ、とっくに帰ってるんだけどな」

空になった器を少々乱暴に置いて舌打ちを一つ。
妙に視線を投げた銀時は、大きな溜め息と共にごろりと寝転んだ。



「不本意ながら不覚にも、かわいいなぁと思ってしまった。」
2011.12.02

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