2929アンケ記念! | ナノ



※ある海外ドラマの台詞に萌えて妄想がひろがったので原作添い山→←妙でパロってます。














「意外と美味しかったわね」

おりょうが両手を上げ、うーんと体を伸ばした。少し食べ過ぎたかもと笑う。

「本当ね。初めて来たけれど美味しかったわ」

おりょうの横で妙が顔を綻ばせた。
とある冬の日。流行りの甘味処があると、おりょうが妙を誘い町へと来ていた。さすがに流行っているというだけあって、多少は待ち時間があったものの、そこは年若い女同志。話のネタが尽きることはなく、待っている間も楽しく過ごしていた。
美味しい甘味をたらふく味わった二人は、次はどこへ行こうかと話しながら特に行き先を決めることなく歩いていく。とりとめのない会話を続けながら、時折笑い合い過ごす時間は楽しいものだった。

「――お妙?」

ある映画館の前。
上客からの電話を受けたおりょうが妙に断りを告げその場を離れ、また戻って来た時、目の前に立つ妙の変化に気付いた。
その大きな黒い瞳におりょうは映っておらず、その先に目を向けている。驚いているとも見惚れているともいえるような表情だ。
おりょうは無言のまま妙の視線を辿り振り返る。そして「あ、」と小さく声をあげた。
映画の上映が終わったのであろうか、映画館の出入口からたくさんの人が溢れていた。老若男女様々な人がそこに居る。その中に見覚えのある顔を見つけられたのは偶然としか言いようがなかった。

「ねえ、お妙。あの人真選組の」

おりょうが妙の腕に触れる。
男にしては長めの黒髪に、人の良さそうな顔立ち。いつもの黒い隊服ではなく着物姿だが、おりょうの記憶の中にある男に違いない。

「ええ、山崎さんよ」

妙は心此処にあらずといった様子で、黒髪の男をじいっと見つめていた。
その時、山崎が妙とおりょうの方に顔を向けた。
かちり、と合う視線。
お互い目が合うとは思っていなかったのだろう、山崎も妙も同じような表情を浮かべて見つめ合っている。

「姐さんじゃないですか。偶然ですね」

山崎が軽く手を挙げながら笑顔で二人に近付いた。

「ちょっと貴方……」

突然、おりょうが山崎の顔をまじまじと見つめ、声をかける。

「え、あの」
「貴方、その顔どうしたのよ………!!」

山崎の顔を凝視しながら何かに驚いているおりょう。その様子に山崎は僅かに身を怯ませた。いつもならそれほど接触のないおりょうからこうも凝視されては居心地が悪い。顔にゴミか何かがついているのだろうかと気になり頬を擦る。

「俺の顔に何かついて――」
「お妙が貴方の顔に釘付けじゃない!」

山崎の言葉を遮るように真顔で言い切るおりょう。
山崎はぽかんと口を開けたまま動きを止めた。
頭の中でおりょうの言葉が処理されていく。
その意味が山崎の脳内に染み渡るのにそう時間は掛からなかった。

「おりょう!何言ってるのよ!」

妙の声にハッとする山崎。
焦りを含んだ声音など初めて聞いた。
弾かれるように視線を妙へと動かせば、頬から耳、そして首筋まで朱に染まった肌が見えた。
白いそこに赤い色は目に痛いくらい鮮やかで、そんな妙の様子で山崎は完全に理解したのだ。
おりょうの言葉の意味。

――やばい。嬉しい。

山崎は口元を手で覆った。片手じゃ足りなくて、両手でしっかりと覆い隠す。
しかし元々タレ気味な目尻がこんなにも下がってしまっていたのでは、にやけた口元を隠したところで意味はないのかもしれない。感情ダダ漏れだ。

「ごめんなさい。おりょうが変なことを言って」

妙の顔はおろか、着物から伸びた腕まで赤く見える。

「いや、そんな変なってことじゃないし」
「あの、まさか山崎さんに会うとは思っていなかったから驚いてしまって」
「や、俺も姐さんに会えるなんて思ってなかったから……」
「あら、私は山崎さんの中でいないことになっているの?」

おりょうが山崎をからかうように言う。もちろんわざとだ。

「い、いえ、そんなつもりは」

山崎が頭を掻きながら弁解する。人の良い顔が困ったように歪んでいた。
その様子がおかしくて、妙とおりょうがぷっと吹き出す。
一気に緊張が溶けたのか、妙が穏やかな笑みを浮かべて山崎を見やる。

「山崎さん、今日はお休みですか」
「一応非番ですが、でも呼び出されたら行かないと」
「大変ですね」
「どんな仕事でも大変ですよ。姐さんのお仕事も」

和やかに会話を続けていたが立ち話もなんだと、誰が言い出したわけでもなく三人でお茶をすることになった。少し前に妙とおりょうは甘味処に寄ったばかりだったが甘いものは別腹だ。

「あ、新ちゃんだわ。ごめんなさい」

妙は携帯を手に持ちながら断りを入れ場を離れた。
薄桃色の着物が雑踏に紛れていく。すらりとした姿はそれでも目立っていた。
多分弟と話しているであろう妙を眺めながら、おりょうはぽつんと呟いた。

「あんた、本音を言ってみなさいよ」
「なにがですか」

同じように妙を眺めていた山崎が言葉を返す。

「私がいなけりゃ良かったって思ってるでしょ」
「まさか」

山崎はすぐに否定する。

「今日はおりょうさんが居て本当に良かったと思ってますよ」
「どうして?」
「おりょうさんが一緒だと姐さんが警戒しないし、なにより姐さん一人だと局長や他の隊士の手前誘いにくいですから」

人の良さそうな笑顔はそのままで、山崎がそうはっきりと言った。これが本音なのだろう。

「――あんたってやっぱり食わせもんだわ」

おりょうが呆れた顔で山崎を見やった。

「おとしたい女の子がいる時は、まずその子の親友を味方につけろって言いません?」

山崎は悪怯れた様子もなくにっこりと笑う。
おりょうはふうっと溜め息を吐いた。
妙は彼の本性に気付いているのだろうか。あんなにも聡いのに色恋にだけは疎い親友が少々心配だ。

「私はあんたの味方じゃなくて、お妙の味方よ」

おりょうが眉をしかめて宣言すれば、山崎がさも愉快そうに笑った。

「じゃあやっぱり俺の味方だ」

電話を終えた妙が二人の方を振り返る。その姿を見た山崎が妙へ歩み寄った。
おりょうは離れた場所から二人を眺める。
確かに食えない男だが、これでもかというほど顔を綻ばせて妙と話す山崎を見ているとそんなことすら忘れてしまう。

「お妙と山崎さんねえ」

思わず二人が一緒になる未来を想像してみる。
これが想像した未来ではなくもうすぐ訪れる事実のような気がしたのは、そうなる為に味方にでも橋渡しにでもなってやろうという気がしたのは、あんなにも嬉しそうに笑い合う二人のせいだ。


「愛のキューピッド捕獲大作戦」
2010.02.23

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