妙誕カウントダウン!! | ナノ
23、高杉と妙


「あなた、普段から顔色が悪いのね」

起き上がっていた高杉に僅かに目を瞬くと、女をそろりと笑った。

「最初は怪我をしているからと思っていたけど、そうじゃないのね」

高杉の居る布団の横に膝をつき、そっと顔を覗き込む。

「血が足りないのかしら」

黒い目が高杉の表面を滑っていく。

「今にも死にそうね」

優しさ、ではないと感じた。
不意をつかれ傷を負った高杉を女が助けたのは、優しさからではないのだと。

「包帯を取り替えましょうか」

その言葉に高杉の視線が鋭くなったのを感じたのか、女が手当の道具を探りながら静かに笑う。

「顔のは触りませんよ。・・・あなたの残骸でしょ?それは」

冷たい声、冷たい目線。

「こたえなくていいですよ。話さなくていい」

月明かりに照らされた女の輪郭。

「あなたの名前も聞きたくない」

知りたくないのではなく、聞きたくない。その言葉からも女が高杉を知っていることを窺わせた。
女は高杉の正体を知っている。
そして高杉も女を知っていた。

「酔狂だな」

鼻で笑ってやれば、女の手が止まった。

「そのまま棄ておくこともできただろうに」

目が覚めてから誰とも会っていない。気配すらない。それは女が人払いをしているから。

「私が拾ったのはただの行き倒れですから」

再び動いた手が皮膚に触れていく。

「動けるようになれば、すぐに追い出します」

淡々とした口調に感情は混じらない。なのに、触れる手は丁寧で。

「今すぐじゃなくていいのか?俺は、あんたの知ってる奴らに恨まれてるよ」

傷は塞がってきている。完璧ではないが血が止まっただけでも充分だ。明朝にはここを出て行ける。

「ですから、」

腕に巻かれた真新しい包帯。

「ですから、私はあなたの名前を聞きたくないんです」

女は包帯で隠れた傷の上にそっと手を置く。

「私も、あなたも、何も知らない。何もなかった」

立場も居場所も違う。生き方も考え方も違う、これからもきっと相容れることはない。

「夢を見ていたと、そう思うことにします」

白い包帯の上に置かれた白い華奢な手。
夢だというのに、触れた箇所が温かった。


『夢の中』
2015/10/08
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