こんな日に限って傘が壊れた。傘がないと外も歩けないのに。
「ここにいた」
強くなる日差しから逃れるために入った知らない軒先。そこで小さく屈んでいると、柔らかな声が優しく降ってきた。
「アネゴ」
「神楽ちゃん、みーつけた」
同じように屈んだ妙がにこりと笑う。
「傘、持ってきたよ」
「なんで」
「ん?」
「なんでここが分かったアルか、傘が壊れたって」
「さあ、なんででしょう」
くすくすと笑って、妙はすっと立ち上がった。
一瞬、置いていかれると焦ったのは昔を思い出したから。
「慌ててたから、雨傘の方を持ってきちゃった」
パンっと開いた傘の花。大きめのそれは妙のもの。可愛くて、何度か持たせてもらったことがある。それを貸してくれるというのだろうか。
じっと見上げていたら、妙が振り向いて笑った。
「帰ろっか」
差し出された手が神楽を呼ぶ。神楽の顔にぱあっと花が咲いた。
「うん!帰る!アネゴも一緒ネ!」
ぎゅっと握った手。それだけで嬉しくなる。
二人で並んで歩く帰り道。妙の傘を差して、妙と手を繋ぐ。
「アネゴは私の味方ネ」
壊れた傘は妙が持っている。修理すればまた使えるのだと妙が教えてくれた。
「いつも助けてくれるアル」
妙がふふっと笑う。
「じゃあ神楽ちゃんの味方はたくさんね。銀さんも新ちゃんも定春くんも、みんな神楽ちゃんが好きだもの」
自分は優しい人達に囲まれている。神楽もみんなが大好きで、いつだってみんなの味方。
でも、妙の言葉の中に肝心な名前が入ってなくて、ほんの少し不安になった。
「・・・アネゴは?」
聞かなくても答えは分かっているのに、聞きたくてたまらない。
握る手に力をこめた。違う答えは聞きたくない。
「もちろん神楽ちゃんが大好きよ」
そっと握り返してくれる。がむしゃらに掴むことしかできない自分とは違う手。
「ずっと神楽ちゃんの味方」
繋いだ手を離すのは簡単だと神楽は知っていた。
「いつだって助けてあげる」
離れた手はまた繋ぐことができるのだと、ここで教えられた。
「私も!私もずっとアネゴの味方アル。アネゴを助けてあげる。約束ネ」
もう一度ぎゅっと握ったら、同じくらい強く握り返してくれた。
それがなんだか嬉しかった。
『あなたの味方』
2015/10/05