妙誕カウントダウン!! | ナノ
28、土方と妙


声をかけられた時、土方は自分ではないと思った。
仕事の付き合いで女の居る店に行けば話しかけられもするが、昼間町中を歩いている時に声をかけてくる女など皆無に近い。
いつも眉間に皺を寄せ、くわえタバコで歩いているしかめっ面の男になど声はかけづらいだろう。普通の女なら。

「私の声は届いてませんか、副長さん?」

両手に抱えた荷物の隙間から見えたのは知っている女の顔。

「お妙さんか」
「こんにちは。お仕事中ですか」
「いや、仕事終わりで屯所に戻ってるところだ」
「じゃあお買い物中?」
「それも終わった」

いつものアレが大量に入った袋を軽く振って見せると、妙がくすくすと笑った。

「仕事終わりでしたら、少し立ち話をしてもお邪魔になりませんよね」

そう言って、妙は可愛らしい手提げ袋の中を探る。

「あ、お荷物が重いですよね。すぐに済みますから」
「気にしなくていい。いつも持ってるからな」
「ふふ、そうですか」

目尻を下げて笑った妙が、「あ、あった」と何かを取り出した。

「箱?」
「いえ、こっちです」

妙はその箱をパカリと開け、中の物を手に取る。

「眼鏡か。あんた目が悪かったのか」
「これは伊達めがねです。先日の眼鏡の日にちなんでお店で眼鏡をかけたんですよ」
「へえ」

眼鏡の日など初耳だ。そんな日があるのかと思ったが、自分が知らないだけかもしれないので黙っておく。

「それで、これを土方さんに」
「は?」

さすがに疑問符が口から飛び出た。なぜ、と思ったが、それを訊ねる前に眼鏡を差し出されてしまう。

「いや、俺は・・・」
「あ、両手が塞がってますもんね。すみません、気が利かなくて」

何をどう勘違いしたのか、妙は眼鏡をかけられる形に整え、それを土方へと向ける。

「少し目線を下げてください」
「いや、だから」
「できれば顔も少し俯き加減で」

何を言っても無駄なのだろう。そういう女だったことを思い出した。ならば手早く済ませてしまおうと、土方は言われた通りにする。

「これ、絶対に土方さんに似合うって思ってたんです」

そっとかけられた眼鏡。顔を上げてくださいと促されれば目の前の女と目が合った。

「ほら。やっぱり、かっこいい」

他意のない素直な言葉。
土方に声をかけてくる女達とは違うその眼差しは少し心地よくて。

「眼鏡なんざ柄じゃねえけどな」
「そうですか?よくお似合いですよ」
「そりゃどーも」

レンズ越しの視界に妙を映しながら、土方は愉しげに笑った。


『眼鏡』
2015/10/03
* *
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -