妙誕カウントダウン!! | ナノ
3、真選組+妙
※姉上は出てきませんが姉上の話です。



『本日正午緊急会議  欠席者は切腹  土方』

山崎は一字一句間違いなく読み上げ、小首を傾げた。
真っ白な半紙に黒々とした墨で書かれた文字。
隊士らが集まる出入り口の一番目立つ柱に貼られた紙に、戸惑いとざわつきが拡がっていた。

「なあに集まってんだ。朝っぱらから暑苦しい」
「あ、沖田隊長。おはようございます」

人だかりの真ん中がさっと開き、その間を悠然と歩いてくる男。首から白い手ぬぐいを提げた沖田が柱の前に立った。顔を洗ったあとなのか、前髪が少し湿っている。

「なんだこれ。指令か?」

ここは隊士らの通り道であり、よく目につく場所でもある。以前から張り紙の類いはあったがそれは、『廊下で刀を抜くな』や『見回りをさぼるな』など、標語に近いものであった。
しかし、今回のものは趣が違う。筆運びの力強さが違う。

「しかも副長の名で招集命令か。おい、ザキ。てめえはなにか聞いちゃいねえのか」
「ええ、はい。俺は何も聞いてないですよ」

土方直属の部下である山崎ですら何も知らない。ということは、これは土方が独断で行ったことなのだろう。

「なら緊急招集か。にしては昼からなんて随分と悠長だねィ」
「副長は昨日徹夜で仕事をしてらしたみたいで、今は仮眠を取られてますから」
「へえ、あの人も大変だ。いつかハゲんじゃねえか」

そう言って、じっくりと張り紙を見ていた沖田は肩を竦める。

「まあ時間になれば、わざわざ俺達を集める理由が分かんだろ」
「そうですね」

沖田の言葉に山崎だけではなく、その場に居た他の隊士らも頷いた。





そして正午。
黒い隊服の男達が居並ぶ姿は壮観だ。
そして、そんな男たちの前に立つ男。
真選組副長、土方。

「全員揃ったな」

睨むように辺りを見渡す。

「近藤さんがいやせんぜ」

土方の近くに座る沖田が手を挙げた。

「分かってる。だから呼んだんだ」

ざわり、と空気が動いた。
土方の言葉に動揺が走る。
それはまるで局長である近藤がいない方が都合がいいと言っているようなものだからだ。
いち速く反応したのは沖田だった。

「そりゃどういう意味ですかィ?」

口調はいつものままだが、そこに不快感が滲み出ている。
しかし土方は動じることなく沖田を見据えた。

「話を最後まで聞け。なにも近藤さんを出し抜こうってわけじゃねえ。むしろ近藤さんの手助けのためにお前らを呼んだんだ」

そこでまた空気がざわりと動いた。
一体どういう意味なのだろうか。
戸惑いがひろがる室内。
その空気を破ったのは、他ならぬ土方だった。

「お前ら、志村妙を知っているな」

突然飛び出た名前に室内はシンっと静まり返る。
意外すぎて反応ができないのだ。

「そりゃ知ってまさァ。真選組やってて姐さん知らねえなんて、そいつはもぐりですぜ」

沖田の言葉に隊士らが頷く。
志村妙は近藤の想い人として隊内で周知されていた。
親しみをこめて『姐さん』と呼んでいるのはその現れだ。

「その志村妙だが、一週間後に地球を発つ」

そして、土方は続けて言った。

「どこぞの天人に惚れ薬を飲まされちまって、まんまとそいつに惚れやがった。で、そいつの星で結婚するそうだ。近藤さんはそれを食い止めるために奔走している」

それが近藤のいない理由だと淡々と説明する土方。
色んな情報を一気に詰め込まれ混乱していた隊士らも、徐々に理解していった。

「ええ!!?」
「マジかよ!!」
「なんだそれ!!どこの天人だよ!!」

次々に声が上がる中、山崎がおずおずと手を挙げる。

「なんだ山崎」
「はい。あの、姐さんは惚れ薬を飲まされたんですよね」
「ああ」
「じゃあその薬の特効薬みたいなものを飲ませればいいのでは」
「ない」
「えっ」

土方は浅くため息をつくと、煙草を取り出した。

「そんなもんあったら近藤さんがとっくに飲ませてる。効果は一生だ」
「ええええ!!??」

驚く山崎をよそに、ゆったりとした動作で煙草に火をつける土方。

「そんな、困りますよ!今更他の人を姐さんだなんて呼びたくないし、なにより姐さんが可哀想でしょ!?」

姐さんと呼んではいるが、彼女はまだ十八歳。
恋の噂もなく、慎ましく暮らしていた彼女。
なのに惚れ薬を飲まされ、強制的に恋をさせるなんて。
ましてやこの星まで捨ててしまうことになろうとは、それでは妙が不憫すぎる。

「副長!どうにかならないんですか!?」

近藤の想い人というだけでなく、妙とはそれなりに関わってきたのだ。
彼女の危機を無視できない。
皆の様子を眺めていた土方は深く煙を吐き出した。

「騒ぐな。解決策はある」
「・・・へえ。そりゃ気になりますねィ」

あぐらをかいた沖田が土方を見やる。
沖田も今回の件には乗り気なようだ。
土方は内心ほくそ笑む。
そうでないとこの作戦は成功しない。

「志村妙に使われた惚れ薬に特効薬はない。が、欠点はある」
「欠点ですか?」
「ああ」

疑問を呈した山崎に視線を向ける。

「一定時間その対象の相手を見ていないと効果は消えちまう。つまり志村妙をその天人から離してしまえばいい。それを知っているからか、志村妙はその天人の船に軟禁にされ、常にそいつといる状況だ」
「どれくらいで効果は消えるんですか」
「三日程度らしいな。そこは近藤さんの方が詳しいから聞いてくれ」

妙が惚れ薬を飲まされたと知った時からずっと、近藤はその薬のことを調べていたのだ。
他の誰かに惚れてしまったショックよりも、そいつが汚い手を使って無理やり妙の意思を曲げたことに近藤は怒りを覚えた。真っ直ぐ前を見つめ歩いてきた彼女を、まるで否定するような行為に。
そんな近藤の姿を見て、土方は隊を動かすことを決意したのだ。

「話は以上だ。各隊の隊長はこのまま残ってくれ。残りの隊士は各自準備。隊長の集合命令に備えろ。──山崎」
「はい!」
「志村妙がどこで軟禁されてるか調べてくれ」
「了解です!」
「土方さーん、俺らの出番はいつですかィ」
「お前ら一番隊には相手を陽動してもらう。できるだけ目立たずに志村妙を救出したいからな」
「つまり、おとりになれってことですねィ」
「詳しくは後で話すからここに残ってろ」
「へーい」

いくつか他の隊士とも言葉を交わしたあと、土方は周囲を見渡す。

「───いいか。今回の件は上を通していない。私用で隊を動かすことは規則に反する行為だ。上にバレねえようにやるには一日が限度と思え。一日で全て終わらせる。それ以外の結果は求めちゃいねえ。速やかに遂行しろ」

皆の視線が土方に集まる。

「これより、真選組は迅速且つ確実に志村妙を救出する」

緊張感漂う静けさの中、土方が命令を下した。



『緊急会議』
2015/10/28
* *
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -