妙誕カウントダウン!! | ナノ
8、ホストの金さんと妙


住む世界が違うというより、生活してる時間がずれている。同じ世界に居るのに僅かにすれ違っているというのが本当だろうか。だからホストと女子高生も会おうと思えば会えるのだ。もちろん昼間に。

「なあ、知ってっか?ホストって日光に当たったら溶けんだよね」
「じゃあ左手はすでに溶けてますね」

大きな木の近くにあるベンチは半分だけ日に当たっていた。もう少しすれば全部が日陰になるだろうが、妙は気にせず座っている。

「つーか嫌じゃねえの?女って日焼けがどーとか言うじゃん」
「その時によって違うんじゃないですか?今日は少し肌寒いから気持ちがいいですよ」
「俺は溶けるんだって」
「じゃあこの手をそっちに戻したらいかがですか」

妙は自分の後ろにある腕を指し示す。ベンチの背もたれに沿うようにして置かれた腕は、まるで妙の肩を抱いてるようにも見える。実際は触れていないのだが、この光景を遠くから見たものは誤解してしまうかもしれない。

「これ、絶対変に思われてる」
「大丈夫だろ。触ってねーし」
「でも」
「触んなきゃいいんだよなー?そう言ってたろ、おまえ」

唇の端を少し上げて妙を見やる。だるそうに喋るのはこの男の癖で、その気怠げな雰囲気に妙は慣れないでいた。自分とはあまりにも違いすぎるから。

「そういや彼氏できた?」
「いいえ」
「えらいえらい」
「うるさい」

妙は持ったままになっていたジュースの缶を開ける。この質問も何度目だろうか。会うたび訊かれ、いい加減応えるのも面倒になってきていた。

「私に彼氏ができたら止めますか」

こくり、と飲んだのはジュースだけだったのだろうか。面倒だと思いながらも会い続けているこの関係の名前とか、感情とか。そんなものも一緒に飲み込んだのかもしれない。

「おまえに男がいたとして、俺は何を止めなきゃなんねーの?」

感情の読めない目が妙を見ていた。妙はこの目が苦手だ。言いたいことが上手く言えなくなってしまう。

「それは、そうなんじゃないですか。だってそうなんでしょ」
「意味分かんねえ」
「だから、私が今まで彼氏なんていた事ないから、それを面白がってるだけですよね?彼氏がいたら興味なくなるんじゃないですか」
「あー、なるほど。男ができたら口説くの止めるだろって?おまえバカじゃね?」

派手な男は軽い溜め息のあと、薄く笑った。
 
「俺さァ、ホストなんだよね」

目立つ髪を無造作に掻きながら淡々と喋る。

「女には飢えてねーの。めんどくせえから特定の相手はつくらなかったし、元々そっち系は淡白だしな。なんせ毎晩色んな女に酒飲ませて酔わせて、その気になる台詞を言ってるからね。女には飽き飽きしてんのよ。じゃあ、そんな俺が金もねえ女子高生を口説いてる理由ってなに?」

寝起きのはずなのに微かにアルコールの気配がする。酒が抜けきっていないのだろう。随分と眠そうで、妙と話してる間もこのホストは寝てしまいそうだった。そんな状態で妙に会いに来たのだろうか。わざわざ妙の会いやすい時間に。

「俺は今日も明け方帰って夜仕事でさ。なのに睡眠時間削ってでも真っ昼間からおまえに会おうとしてるわけ。その理由、考えたことある?」

妙は手に持つ缶を見つめる。会った直後に渡されたジュースはもう空で。なのに飲み込みたいものがたくさんあって。

「まあ、おまえに男ができても関係ないってこった。つーかマジで男つくんなよ。普通にショックだから」
「・・・考えておきます」

そう言った妙の肩が、ほんのり温かくなった気がした。



『片腕分の距離』
2015/10/23
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