妙誕カウントダウン!! | ナノ
10、ヅラパートif 山崎と妙
※もしもヅラパートの山崎と妙ちゃんが恋人同士だったら、という「もしも」設定です



カラカラと窓の開く音に山崎は顔を上げた。
携帯を耳にあてたまま、そこから現れた人物を確認すると一層表情を和らげる。

「妙ちゃん」

昼間の気配はどこへやら、冷たく乾燥した空気が喉に張りつく。
辺りは闇夜で、空には月と星がぷかりと浮かぶ静かな夜。そんな月夜に馴染むよう、小さな声で名前を呼んだ。

「妙ちゃん。こっち」
「―――山崎さん」

安堵したような笑顔は、どっぷりと黒に染まった世界の中に山崎を見つけたからだろうか。
妙は山崎と同じように携帯を耳にあてたままベランダに出ると、用心深くゆっくりとガラス戸を閉めた。

「ただいま妙ちゃん」
「おかえりなさい。おつかれさまです」

山崎と妙が恋人同士になって数ヶ月が過ぎていた。
そこに至るまでには色々とあったのだが、今ではヅラパート公認の恋人同士として仲良く過している。もちろん清い交際だ。特に山崎は主に桂から色々と約束させられていた。

「今日も遅かったんですね」
「忙しい時期だからねえ。妙ちゃんももうすぐテストなんじゃない? 期末だっけ」
「そうですね。テストもそうですけど課題が多くて。バイトもありますし、休みの日は寝すぎちゃってるかも」
「俺も昼まで寝たいなー」

付き合っているといっても生活は変わらない。学生と社会人、それぞれやることがあり、時間を合わせるのは難しかった。隣同士なのにゆっくり話す機会も最近は少なく、ベランダ越しとはいえこうやって二人きりで会える時間は貴重だ。そんなわけで山崎には考えていたことがある。あーでもない、こーでもないと。

「妙ちゃん、今度デートしない?」

さっくりと誘ってみた。色々と考えていたが、こういうのは考えすぎない方がいいのかもしれない。現に妙は嬉しそうに顔をほころばせている。

「はい。あの、楽しみです」
「うん、楽しみだね・・・はは、なんか照れるな」
「ふふ、そうですね」

恋人同士といっても、デートという名のついたものはしたことがなかった。同じアパートで仲良くしていたおかげで、一緒に買い物や一緒に食事などは既に経験済みなのだ。もちろん当時は恋人という関係ではなかったから甘い雰囲気など皆無だったが。

「じゃあそういうことで。そろそろ寝ないと明日辛いでしょ」

デートの日時や行き先を軽く話し、決めるのはまた今度ということになった。さすがに夜のベランダで長話はできない。

「やば、こんな時間になってる」

携帯で時刻を確認する。意外と話し込んでいたようだ。

「ごめんね、気付かなくて」
「いえ。私はもう寝るだけですから」
「そっか。俺は今から風呂かな。飯も食ってないし」
「え、そうなんですか」
「妙ちゃんに早く逢いたくてさ、部屋着に着替えてすぐに連絡したんだよね」

言ってる本人ももちろん恥ずかしいが、言われた方はもっと恥ずかしいのかもしれない。妙は頬を赤らめると俯き、戸惑うように視線を彷徨わせていた。
可愛いなあ、と。胸の真ん中辺りからじわじわと染み出してくる感情に山崎の頬が緩む。

「―――俺の部屋に来る?」

その言葉は、今まで山崎と妙の間に存在しないものだった。
妙がハッと顔を上げる。そして。

「撮った」

カシャ、と無機質なシャッター音が響いた。妙を見ている山崎の手には携帯が構えられている。

「妙ちゃんの驚いてる顔ゲットー。レアだよね、これ」

一度画面を妙に見せたあと、「はい、保存しまーす」と愉しげに笑う。
にこにこしている山崎を見ていたら肩の力が一気に抜けた。妙はホッとしたと同時に、何とも言えない気持ちになる。

「ビックリした?」
「当たり前です・・・」
「あはは。おかげで良い写真が撮れたよ。ありがと」
「それ、どうするんですか」
「ん? もちろん大事にするよー。疲れた時に眺めたりさ」

冗談ではなく本気だ。これならいつでも妙に会える。そんなことまで言ってしまうと重い男だと思われそうなので言わないが。

「あの、」
「ん?」
「私も・・・撮っていいですか」
「・・・俺?」

驚いて自分を指差せば、妙がこくりと頷いた。

「できれば・・・二人で一緒に写りたいです」

携帯を握り締めた妙の姿に心臓が高鳴った。

「は、はい・・・俺も二人で写りたいです」

山崎の顔は妙に負けず劣らず真っ赤になっているだろう。
大人という存在になってから早何年、まさかこんな恋ができるなんて。
なんて幸せなのだろう。


『ベランダ越しの初恋』
2015/10/21
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