妙誕カウントダウン!! | ナノ
11、九兵衛と妙



「九ちゃん、これどう思う?」

おずおずと差し出された物を見て、九兵衛の動きが止まる。

「新ちゃんのお部屋の掃除をしてたらね・・・これが」

あきらかに普通ではない雑誌。表紙の絵もさることながら、書かれてある文字も普段あまり目にするものではない。

「新ちゃんは自分で部屋を掃除するんだけど、今ちょっと忙しいらしくて帰って来るのが遅いのよね。だから、空気の入れ替えとホコリ取りくらいはしようと思って」
「で、妙ちゃんが掃除してる時にこれを見つけた、と」
「これ見たら思わず持って出ちゃった。だって、なんか普通じゃないような気がして・・・」
「いや、分かるよ。これは・・・」

妙と九兵衛の間に置かれた雑誌を見入る。女の裸が載っているわけではない。むしろそっちの方が良かった。それには妙も同意らしく、普通にそういう雑誌なら見ないふりをしていたと言う。

「九ちゃんはどう思う?」

妙が指差した先には二人の人物。

「どうって、これを?」
「いや、これって・・・その、新ちゃんのでしょ?」
「ああ・・・」

妙の言いたいことが分かってきた。

「これが新八くんの物だということは、そういうことかもしれないな」
「そうよね・・・新ちゃんってこんな趣味があるのね・・・・」

新八の部屋から出てきた雑誌を九兵衛は真面目な顔で、妙は戸惑ったような顔で眺める。何度眺めても表紙は変わらない。

「新八くんに緊縛趣味があるとは意外だな」

雑誌の表紙には縛られた人物が載っていた。それが真ん中にでんっと居座っている。そういう雑誌だということだろう。

「おすすめの縄ショップですって。新ちゃんも行くのかしら・・・」
「彼は通販に頼るタイプじゃないかな。さすがに直接そういう店には行かないと思う」
「お仏壇のロウソク、それように変えたほうがいいのかしら」
「いや、それはご両親が驚くから止めた方がいい」

妙は案外すんなりと受け入れて話してはいるが、やはり思考が追いついていないようだ。仏壇のロウソクをそれように変えることは全力で止めておいた。

「───ねえ九ちゃん。私ね、新ちゃんにこういう趣味があってもいいと思うの」
「妙ちゃん・・・」
「だって、そうだったとしても新ちゃんは新ちゃんだし。何も悪いことしていないのならいいと思う」

理解はできないかもしれない。分からないままかもしれない。でもそれでいいのだと妙が笑った。九兵衛も表情を崩す。

「妙ちゃんがそういうならそれでいいと思う。キミは間違っていないよ」

妙が笑っていると安心する。妙がいいと言うなら九兵衛に異存はないのだ。
なんとなく話がまとまりかけた時、

「でもね」

と、妙が表情を真面目なものに戻した。

「新ちゃんがどちら側なのかは気になるの」

そう言って表紙の人物を順番に差していく。表紙には二人の人物が載っているのだ。一人は縛られた方、もう一人が縛っている方。二人はどちらも女性で、役割が決まっているようだった。

「ねえ九ちゃん。新ちゃんってどっちだと思う?」
「縛る方か縛られる方?」
「うん。私はね、こっち側じゃなかなって思うんだけど」
「うーん。、僕は・・・こっち側だと思うな」
「そう?」
「うん。新八くんはこういうの好きそう」
「新ちゃんならこっちが好きそうだけどなあ」

その時、玄関の扉が開く音が部屋まで響いた。

「ただいまー!!姉上、今帰りましたー」

まさか自分の居ないところで姉と姉の親友が自分の性癖について熱く議論してるなどと思うはずもなく、新八が意気揚々と帰宅する。
居間に拡げられた雑誌を見て叫ぶまで、あと数十秒。



『彼の趣味』
2015/10/20
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