「風邪引くぞ」
と、優しく頭を撫でられた。それが嬉しくて、顔にでていたかもしれない。
「おつかれさん」
渡されたマグカップからホカホカと白い湯気。ひんやりした指先が温かくなっていく。
「甘くしてるから」
「うん。ありがとう」
ホットミルクをふうふうと冷ます。そろりと飲めば、大量の課題に疲れた頭もほぐれていった。
「もう終わるのか」
「あとは見直しだけ、かな」
「そうか。頑張ったな」
土方に褒められて、妙は頬を緩めた。少し甘いホットミルクは、妙の身体だけでなく心の中まで温めてくれた。
いつもは上げている髪が下りている。それだけで特別な感じがした。
「髪、まだ濡れてんな」
触った髪は湿っていて、まだ乾いていないことが分かる。
「課題やってたら後回しになっちゃって」
ドライヤーは準備していたらしく、棚の上に置いてあった。ならば話は早い。
「休憩時間の延長はできねえか」
妙は意味が分からないようで、マグカップに唇をあてたまま小首を傾げた。その無防備な動作に笑みがこぼれる。
「髪、乾かしてやる」
言うが早いか、土方はドライヤーを手に取った。自分には縁のないものだが、使い方くらいは分かる。
「でも、土方さんにそんなこと」
「俺がやりたいって言ったら?」
ドライヤーを持ち、妙の元に戻った。髪に触るとやはり湿っている。
「いつも世話してもらってるからな。それの御礼だよ」
同じくらい、自分にとってもご褒美だが。
いつもは煩く感じるドライヤーの音が少しも気にならない。それより、髪を乾かす土方の指が気になった。
「熱くねえか」
「ん?ううん、全然。気持ちいいです」
「気持ちいいか」
そりゃ良かった、と笑った気配がくすぐったい。すぐ後ろにある体温にドキドキする。
「───終わったよ」
ドキドキしてる間に髪は綺麗に乾いていた。土方を意識しすぎてポーッとなっていたのかもしれない。それが恥ずかしくて、妙は誤魔化すように髪に触れる。
「ありがとうございます!すごい、さらさらだ。乾かすの上手ですね」
「お前の髪がいいんだよ。でもそう言われて悪い気はしねえな」
耳元で笑い声がして、妙は自然と俯いてしまう。温かい髪がさらりと流れた。
多分、照れているのだろう。妙が俯き、さらりと流れた髪のおかげで細いうなじがあらわになった。少し赤くなった肌。ドライヤーだけのせいだろうか。
「いつもみてえに結んでるのもいいけど、こうやって下ろしてるのもいいな」
長い髪を一筋手に取り、そうっと手をすべらせる。
「・・・土方さんは下ろしてる方が好き?」
「いや、結んでるのもお前らしくて似合ってるし、そういう意味じゃねえから」
どんな髪だって関係ない。きっとどれも似合うし、どれも好きだろうと思う。ただ──
「下ろしてると、特別って感じがするだろ?」
そう言いながら、妙のうなじに口付ける。熱い肌。石鹸の匂い。休憩時間をもう少しだけ延長してくれと頼めば怒るだろうか。
『休憩中』
2015/10/12