妙誕カウントダウン!! | ナノ
20、銀時と妙



ああ、そうか。頭がおかしいのだ。

「やっと理解ができました。そういうことだったんですね」

妙は晴々とした顔で頷く。そう思えば話は簡単だった。

「お酒の飲み過ぎですか?頭が働かなくなるまで深酒するからおかしくなるんですよ」

吐きそう、とうずくまった男の背中に手を添える。近くによれば強いアルコール臭。

「家まで我慢できますか」
「・・・まてよ」
「動くのはツラいですか。なら、」
「そうじゃねえよ。ちょっと黙れ」

辛そうな声は変わらずで、男は低く唸る。いつもの口調だが声は弱々しく小さい。大丈夫か、と声をかけたかったが、黙れと言われた手前それもできず、妙はそっと背中を撫で続けた。

「───酔った勢いじゃねえからな」

不意に聞こえた声に妙は手を止める。俯いたままで聞こえづらいが、その言葉はするりと耳に入り込む。

「酔っても言わねえよこんなこと。こんな、めんどくせーこと」

ああ、やはり頭がおかしいのだ。この人がこんなことを言うはずがないのに。
妙は何も言わずに背を撫でる。
男の広い背中をぼんやりと眺めながら。





目に入ったのはいつもの天井。いつ寝たんだっけ、なんて思ったり、頭の痛みに呻いたり。

「具合はいかがですか」

一瞬ぽかんとして、一気に目が覚めた。ありえない位置に見知った女の顔があった。お前なんでそこにいんの?

「あなたがここに居るからでしょ」

声に出ていたらしい疑問に妙が応えてくれたが、寝起きと酔いで頭が上手く回らない。
うーん、と呻いて髪を掻こうとしたところで気付いた。近すぎる妙との距離とか、見上げた角度とか、体温とか。

「膝枕とかするキャラだっけ、お前」

頭の下にある妙の脚を指差せば、軽く笑われる。

「時と場合によりますよ」
「その結果がこれ?」
「覚えてないんですか?」

そう問われて、思わず口をつぐんでしまった。このありえない状況は自分がしでかした事なのだろうか。

「今って何時」
「真夜中ですよ」
「ああ、そう」
「神楽ちゃんはもう寝てます。定春くんも」

そうだった。飲みに行ったのは神楽達が寝てからで、そこで酔い潰れたのだ。

「お前なんで居んの?」

膝枕のまま見上げると、妙は僅かに目元を和らげて笑った。その笑顔に、なぜか安堵のようなものが見える。

「本当に覚えてないんですね」

妙が簡単に説明してくれた話は、確かに記憶の中にあった。俺が飲み屋街の路地でうずくまっていたこととか、たまたまそこを通りかかった妙がタクシーを拾って連れて帰ってきてくれたこととか。

「迷惑かけたみてえだな」
「そうですね。お酒は程々にしてくださいね」
「あー・・・そうだな」

適当に返事をしたのがバレたのか、妙が呆れたように小さく笑ったのが分かった。
さすがにこのままじゃ色々と問題あるだろうと、腹に力をいれて身体を起こす。

「よっ、と」
「いきなり起きて大丈夫ですか」
「大丈夫、」

と言いかけたところで頭がくらりとした。マジか、と額に手を当てて俯き呻いていると隣の気配が動いた。

「無理しないで下さいね」

背中が温かい。その温かさに心当たりがある。こんなこと前にあったな、そういえば。

「銀さん、どうですか。吐きそう?」
「吐きそうっつーか」
「違うの?」
「なんか急に思い出したかも」
「え?」

顔を上げれば、やはり近くに妙の顔があった。瞳が揺れているのは気のせいだろうか。それとも。

「なんかめんどくせーこと言ったよな、お前に」

明らかに動揺した顔が記憶の正しさを肯定する。そのついでに自分のやらかしたことを思い出して、人ごとのように鼻で笑った。

「あれ、どうしよっか」

酔っぱらいの戯れ言ですましてやるのが良いのかもしれない。
でも、ほんのりと頬を赤らめた妙を見てしまえば、そんな気も吹っ飛んでしまった。


『膝枕』
2015/10/11
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