「あんなのは、俺は見逃すつもりはねえですぜ」
いつもより冷たく硬い声に妙はびくりと肩を揺らす。普段は飄々としている沖田だが今は全く違う。表情こそ変わらないが、その目が、その声が、妙の知らない沖田のようだった。
「姐さんが男に身体を寄せられても平気な女だとは思いやせんでしたぜ」
「ごめんなさい。でもあの人はお客さんで、」
「だから、男だろ?」
ひたり、と冷たい視線で妙を捕らえれば、青ざめた顔が強張った。
「客だからなんですかィ?客になら何されても我慢するって?」
「違います。そんなことありません」
「嘘吐き」
囁く声に一切の優しさはない。
「俺は見たんですぜ。あんたが、男に言い寄られて、拒んでいないところ。それとも俺が嘘吐きって言いたいんですかィ」
「そんなことありません!」
「俺も同じことやろうかねィ。適当な女に言い寄って、腰の一つでも抱いてこようか。アンタが言ってんのはこういう事だろ」
妙の顔が悲しみに歪んだ。唇を強く噛み、涙を必死で堪えている。自分に非があると思っているのだろう。後悔すればいい、と沖田は思う。自分に冷たく扱われ傷付けばいいとさえ。
だが───
「ごめん、姐さん。嘘だから」
堪えきれなくなった涙が一粒落ちたしまえば、沖田の暗い感情もまた一つ凪いでいく。
「そんなことしねえから。ごめん、言いすぎた」
柔らかな唇に血が滲んでいた。戦慄いた唇から吐息のような掠れた声。その小さな声を聞き取りたくて、白い頬に顔を寄せる。
「・・・大丈夫、分かってる。分かってやすから、ごめん姐さん」
本当は最初から分かっていた。妙はそんな女じゃない。大方、よろけた客を助けるために手を差し出しただけ。事故のようなものだ。しかしそれでも沖田は納得できなかった。相手の男にその気がなかろうが関係ない。知らぬ男の傍で微笑む妙を見たくなかったのだ。
「うぜえでしょ。男のくせに嫉妬深くて」
心の広い大きな男になれたらどんなにいいか。でも自分はまだ子どもで、考えもなく感情のまま突っ走り、結局大切な人を傷付けてしまった。
「ごめん、でも男と仲良くしねえでほしい。見たくない」
それでもワガママを言ってしまう自分が嫌でたまらない。
だけど妙は優しいからそれを許してくれる。
濡れた目尻に口づけて、もう一度どごめんと抱きしめた。
『嫉妬』
2015/10/10