07/19 沖田と妙
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はい、と差し出された包みを沖田は凝視した。薄い水色の風呂敷に包まれたモノ。
「お仕事が忙しくてお昼はまだなんでしょう?良かったらどうぞ」
良かったら、と言いながらも強制的に手のひらへと乗せられた包み。
「別に忙しいから食えなかったってわけじゃありやせんぜ」
忙しくて飯を食うのも忘れるほど仕事に重きを置いていない。しなければならないことと、したくないことの釣り合いを取らなければすぐにでも投げてしまいたくなる。
「仕事だから嫌でも面倒でもやりやすけど、飯を食うのを我慢してやるほどのことでもねえですからね」
そう言いながら、何か確認するように沖田はゆさゆさと手を揺らした。
「この握り飯、貰ってもいいんですかぃ」
「あら、中身が分かるの?」
すごいですね、と笑った妙を一瞥し、沖田はついっと視線を動かした。
「昼前にアンタの弟に会いやしてね、そのときに言ってたんでさぁ。姉さんが差し入れに握り飯を持って来るって」
「新ちゃん、楽しみにしてくれてたのね」
ふふっ、と笑った妙が踵を返した。目的地は万事屋だろうか。
「じゃあ沖田さん、私はこれで」
「姐さん、これ」
「大丈夫、それは余分に握った分だから。みんなの分は別にあるのよ」
にこっと笑って手を振る妙を、沖田は無表情のまま見送ろうとした。いつもならそうだ。必要以上の話しはしないし、必要になることもない。
なのにどうしてだろうか。
「姐さん、待って」
妙が驚いたように振り返った。呼び止められるとは思っていなかったからだ。
「姐さんは嘘つきですぜ」
離れた距離を埋めるように歩き、また近付く。片手に抱えた包みはそのままに、沖田は隊服のポケットから手を出した。
「あげる」
思わず差し出した妙の手のひらに色とりどりの包み紙が落とされる。ぽたりぽたりと虹色の雪が降っているようだ。
「飴ですか?」
「オレのおやつ」
「ありがとうございます・・・私が嘘つきってどういう意味ですか」
「この握り飯、姐さんの分だから」
妙がハッと顔を上げた。やはり、と沖田は小首を傾げる。
「オレに気を使わせないためですかぃ?アンタも損な性格してやすね。自己犠牲精神も程々にしとかねえと、いつか誰かにつけこまれやすぜ」
子どもが平穏無事に生きていけるほど、ここは優しい町ではない。だから皆、大人のふりして生きている。しかしいくら大人びて見えても妙はまだ子どもだ。そして沖田も。
「ここに来て、やりたくもねえ役目を押し付けられて、毎日嫌々働いて。つまんねえ世の中だけど」
飴を乗せた妙の手に、沖田はそっと自分の手を重ねた。
「アンタみてえなのが居るから、もうちょっと頑張ってみようって思えるんでさぁ」
難しい単語は心に響かない。単純な感情で心は動く。
子どもなら子どもらしく、欲しいものだけが欲しかった。
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沖妙イメージソングを教えてくださった、ななさんへ捧げた沖妙文です。