04/18 銀妙
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縁側で胡座をかいた背中がいつもより小さく見えた。
湯飲みに伸ばした手に、また傷が増えていた。
軽口をたたく声が低く擦れていた。
決して妙を見ようとはしなかった。
「俺には分かんねえよ」
銀時の髪が風に揺れる。
「未来とか言われてもいまいちピンとこねえし。きっとロクな死に方しねえんだろうなってことしか分かんねえわ」
湯飲みを持った手が一度止まり、またゆっくりと動き始める。
「多分俺は、一人で死ぬんだろうよ」
花が散る。ふわりと舞って、落ちていく。道しるべのように点々と。
一人で歩いて往くのだろうか。集まった花弁が一つ一つ剥がれ落ちていくかのように、最期は一人で消えるのだろうか。
「お前には未来がある。あいつらにも。無限に広がってるよ。俺には想像もつかねえくらい」
空の湯飲みがことりと鳴った。
妙の胸にそれが響いた。
「銀さん」
首の後ろから腕を回し、妙は銀時をぎゅうっと抱きしめる。
衝動のような激しさはなくとも、その行動は十分に銀時を驚かせた。
「こういうことすると、男は勘違いすんぞ」
そう言って小さく笑う。
腕に息がかかる。温かい。
「勘違いして下さい」
妙は肩に顔をうめて目を閉じる。
「勝手に一人で死なないで下さい」
腹がたったのだ。何もかもを諦めて、見ないようにしている男に。
「俺はやめたほうがいい」
かさついた指先が、妙の手をそっと撫でた。
「お前だけを選べねえから。俺の前に誰かいたら、その度に手を差し出しちまうから。悪いこと言わねえから止めとけって」
突き放すような言葉と、慈しむような指先。そのどちらが真実なのだろうか。
妙はどちらでも構わなかった。
「それが銀さんの生き方で、銀さんの未来でしょう?」
銀時の手に自分の手を重ねる。
「差し出す手が足りなければ私の手も使って下さい。そうやって私と生きてくれませんか」
無限に広がる未来でも選ぶのは自分自身。
後悔があるなら、それを選ばなかったときだけだ。
頭に銀時の手が触れる。
顔を上げれば、至近距離で目があった。
瞳の色が違う。そこに妙が映る。
銀時の頬に手を添えれば、そっと唇を塞がれた。
(終わり)
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銀妙イメージソングを教えてくださった、和栗さんへ捧げた銀妙文です。