日記妄想つめあわせ | ナノ

 04/28 戯れる女の子(妙とおりょう)


「驚かないでね?」

そう言った妙におりょうが「今更でしょ」と呆れたように笑う。
友人である志村妙との付き合いの中で、非日常や非現実的なことにはかなり耐性がついていた。初めは驚いたり慌てたりしたものの、今では「それでどうしたの〜」と携帯片手に流せてしまうくらいに慣れてしまっていた。

「もう、今更ってなによ」
「今更でしょうが」

おりょうは妙の鼻をひょいと摘まむ。

「そんな顔しても私は他と違ってほだされたりしないからね」
「ちょっと、おりょう」
「ほら、早く言っちゃいなさい。今度はどんな迷惑ごとが起こったのよ。誰が絡んでるの?男?女?それともゴリラ?」
「近藤さんは関係ないわよ」
「じゃあ天パか眼鏡か・・・そんなところでしょ?」

おりょうは手を離す。つんと高い鼻の先が少しだけ赤くなっていて、思わずぷっと吹き出した。何も告げないまま自分の手提げを探り、取り出した手鏡を妙に差しだす。

「・・・赤くなってるじゃない」
「ごめんね。あんたって白いから余計に目立つのよね」
「なに他人事みたいに言ってるのよ」
「だからごめんって。甘いもの奢るから許してよ」

両手を合わせるおりょうの言葉に妙の表情が綻んだ。やはり女の子に甘味の威力は絶大だ。

「それで、私が驚くことってなにかしら」

客への営業メールを終え、おりょうが携帯をテーブルに置く。雑誌を読んでいた妙は顔を上げ、首を傾げた。

「驚く?」
「さっき言ってたじゃない。驚かないでねーとかなんとか」
「ああ・・・そうね・・・・んー」

歯切れの悪い返事をして妙が目を伏せる。

「どうしたの」
「うん・・・そのことなんだけど」

ゆっくりと雑誌を閉じて、深く息を吐く。

「今はまだ、言わない方がいいかなって・・・思って」
「えっ?なにそれ余計に気になるじゃないの!」

おりょうがテーブルを軽く叩いた。

「そこまで言っといて秘密だなんて、そっちに驚いたわ」
「でも」
「でもじゃない。あんたはいつも考え過ぎなのよ。ほら、さっさと教えなさいよ」
「考えもするわよ。おりょうがどう思うのかって気になるし」
「散々好き勝手しといて、気にすることでもないでしょ。多少のことじゃもう驚かないわよ」
「おりょう・・・」

ようやく観念したのか、妙は何度か視線をさまよわせたあと、静かに口を開いた。

「あの、私ね・・・」

そこで言葉は止まる。また視線をさまよわせて、そして何かを決意したかのように、妙はおりょうを見つめた。

「おりょう」
「うん」
「私、変身できるの」
「・・・・・へえ」

内心の動揺を見せないように、おりょうはつとめて平静を装う。
変身?
何に?
どうやって?
この子は一体なにを言ってるの?
頭の中は浮かんでは消える疑問に埋め尽くされていく。しかし驚かない宣言をした手前、過剰な質問はしにくい雰囲気だ。リアクションも取りづらい。本当は叫びたいくらいだった。


変身すんのかよ!!!


「───それで、お妙はどうして私に言う気になったの?」

本当に訊ねたいことは山ほどあるのだが、とりあえず当たり障りのない質問にとどめておく。むしろ変身について今は触れないでおくつもりだ。いっそ忘れてしまってもいい。私が。
おりょうはぐるぐると回る思考を隠しつつ、いつもの感じで妙に訊ねた。

「変身については聞かないの?」
「へ?」

あえて避けた話題を振られ変な声がでる。本当は動揺しているとバレたかもしれない。おりょうは咳払いをする。

「あ、あー、そうね。変身ね、変身。そうそう変身」
「変身って分かる?」
「え?ああ、そうね、えーと・・ミニスカートを着た女の子みたいなもんかしらね?よくテレビで観るわよ」

変身に関する記憶を辿れば、今人気の女の子アニメが思い浮かんだ。興味がないおりょうにとって、そのアニメも女の子がミニスカートの派手なドレス姿に変身し、髪型も変わるということしか分からないが。

「お妙も変身すると髪型が変わるのかしら。その黒もロングも似合うけど、もうちょっと派手なのもいいんじゃない?あんたは美人なんだしさ・・・ねえ?」

取り繕うように言うと、妙は若干眉を潜めた。

「何を言ってるの?」
「え、変身でしょ」
「私の変身はそういうのじゃないの」
「そうなの?」
「ええ。髪型は変わらないしミニスカでもないわ」

へー、そーなんだーと気の抜けた返事をしつつ、おりょうは目線を逸らした。変身の種類なんか知らねーよ!とは言えないので必死に考える。しかし浮かぶのはミニスカ少女ばかり。
他に何か変身モノってあったかしら・・・と目を細めたとき、

「──やっぱり、おりょうしかいないわ」

妙がおりょうの手を両手で包み込むように握った。

「ねえおりょう。言ったわよね。──どうして私に言う気になったの──って」
「え、ええ、言ったわ」
「それはね、貴女を誘いたかったからよ」
「・・・・はあ?」

握りしめる妙の手に力がこもる。

「貴方のその態度。どんなことが起こっても動揺せず、冷静に状況を判断し、的確な言葉で相手を説得してしまうところ。冷めていながらも優しさを滲ませる口調。なによりその目。熱すぎず冷たすぎず、ピッタリだわ」
「お妙、ちょっとストップ!」
「いいえ止めない。だって貴方しか適任はいないの。お願い、おりょう」

妙はぐっと顔を近づけて、おりょうを真っ直ぐに捕えた。

「一緒に頑張りましょう、おりょう!!いえ、ブルー!!」
「は?ブ、ブルー?ブルーってなによ?」
「あ、私は一応リーダーやってるピンクです」
「自己紹介いらないから!ていうか変身ってそっち!?そっち系!?」
「あと三人見つけないとね・・・ブルーは誰が良いと思う?」
「普通にブルー呼びしないでよ!私はやるなんて一言も言ってないからね!!」
「もう、ブルーったら」
「ああーもーゴリラでも天パでもいいから誰かこの子を止めてちょうだい!!」
「さ、行くわよブルー」
「いやああああ!!!」


おわる


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