日記妄想つめあわせ | ナノ

 10/29 泣いて、笑った(姉上と誰か)


弟離れできていない姉上と誰か





新八にそのような相手がいるのだと、聞かされてはいた。
でも、実際に本人からはっきりと告げられるとは思ってもいなかった。
妙は弟に笑みを向けたが、内心は一つも笑えやしなかった。
遠ざかる足音は弾むように軽やかで、それは新八の感情を雄弁に語っていた。
好きなんだ。誰よりも彼女が好きなんです。
ああ、と妙は顔を伏せる。痛む胸に唇が震える。痛くて痛くて張り裂けそうだ。
涙の膜が眼球の表面を覆っていく。膜はどんどん厚くなり、世界はぐにゃりと歪んでいった。
泣きたくはなかった。こんなときに泣くなど最低だ。妙のプライドが許さない。
唇を噛み締めて、溢れ出そうになるものを耐える。こんなふうにだけはなりたくなかったのに。笑って、おめでとう、と言うはずだったのに。
妙が胸の辺りをぎゅうっと握りしめる。痛い、痛い。
新八の顔が浮かんだ。
幸せになってほしい。誰よりも、幸せに。
繰り返す願いは、妙だけでは叶えられないものだ。
そして、妙の幸せも、きっと新八だけでは叶えられない。
良かったと妙は思う。心底良かったと。この世で自分が一番彼の幸せを願っているのだという自負があったから。それは変わらない。
なのに胸が痛むのだ。心が千切れそうになるのだ。どうすればいい。誰も教えてはくれなかった。

「       」

名を呼ばれ、ひゅっと息を飲み顔を上げる。妙のよく知る男がそこにいた。
いつもの妙なら感情を隠し笑顔を見せるのに、今はそれをしなかった。ひどく情けない顔をしている自覚はある。痛む胸を着物越しに握りしめたまま、男を見つめた。



だから言ったのに、と男は溜め息を吐いた。先に結婚した方がいいと言ったのに、と。
男は少し怒っているようだった。男が妙に怒りを向けることなどないに等しいので、その珍しい態度に妙は僅かに戸惑った。

「       」

男がもう一度名を呼んだ。
着物を握りしめた手に力がこもる。
男はゆっくりと畳に足を乗せ、妙の目の前しゃがみ込んだ。胸元を握りしめた妙の手を引き剥がす。そしてその手をぐっと自分の方に引きよせ、言った。いつもの声で、まるで当たり前のように。結婚しようと。
皮膚から伝わる他人の体温が骨まで染みる。なのに痛みは引かない。余計に酷くなったのかもしれない。誰のせいだ。ああ全部この男のせいだ。
心許ない視線が虚空を泳ぎ、自分を見つめる瞳に捕らえられた。
視線を合わせる。
妙の情けない顔はもっと情けなくなった。怒っているように見えた男の顔も、今の妙と同じに見えた。
痛いのだろうか。
男も痛みに耐えきれず、だから今、妙を抱きしめているのだろうか。
結婚しよう。もう一度、男が言った。
妙は幼子のようにぐしゃっと顔を歪めて。
泣いて、笑った。


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唐突に思いついたので勢いで文にしました。
かなりのブラコン姉上です。でも新八もかなりのシスコンなので同じ感じにはなりそうです。


相手は誰でもいいですが、二人は付き合っているわけではなく、でも好きあっているという設定です。お互いに分かっているけど、姉上が「新八が大人になるまで見守りたいの」と言ったので関係は平行線のまま。それに対して男は「弟より先に結婚した方がいい」と言ってたんですよ。弟離れできていないのに物理的にも心情的にも離れていかれたりしたら意外と打たれ弱い姉上は耐えられないだろうと。案の定ダメージ受けまくったんですけどね(笑)

そんな二人です。

弱い姉上を書いてみたかったので満足です。


姉上お誕生日おめでとう!!!イエーイ!!


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