日記妄想つめあわせ | ナノ

 10/08 土方と妙


(唐突に始まり唐突に終わります)




土方と妙




女は何かを確かめるように男の頬を指先でなぞる。その突然の行為に土方は目を見開いて妙を凝視した。驚いたのは土方だけではない。妙もまた、土方以上に驚いていた。

「すみません」

妙は何に対して謝っているのか分からぬまま手を引き離し、その手を隠すように握り締める。
どのような時も澄ました顔で減らず口をたたく女からは想像つかぬほど動揺しているようであったが、それは土方も同様で、戸惑いのまま視線をさ迷わせることしかできなかった。

「いや、」

続く言葉が見つからない。今の状況で伝えるべき言葉など持っていないことに気付き、土方は言葉を発する代わりに煙草をきつく噛み締めた。
互いに無言のまま過ぎていく時間。先に言葉を落としたのは妙であった。

「何かに似てると思ったの」

女の顔から動揺は消え去り、代わりに落ちついた笑みを浮かべていた。

「似てるのは私だったわ」

なぜだろうか、目の前に立つ女は泣いているように見えた。微笑んでいる女を見て泣いていると思うなど、自分は目か頭がイカレているだろうか。女が土方の前で泣くことなどあるはずがないのに。涙の欠片も見えやしないのに。
溜め息と共に紫煙を吐き出す。女のことなど分からない。
考えることを放棄すれば、すこしだけ心が晴れた気がした。

「俺が女だとあんたみたいになるのか」
「私の方が愛嬌がありますけどね」

間髪いれずに返ってきた女の言い様に片眉を上げる。相も変わらず可愛いげのない女だと改めて確信したが、それでも、と土方は思う。

「あんたが女で良かった」

心の底からそう思った。

「私が男だと役不足ですか」
「そういう意味じゃない」

視線を流せば昇る煙越しに女の手が見えた。その手をじっと見つめる。
頬を滑った感触。一瞬冷たく、しかし心地好い柔らかさ。間近で見た白い肌。

「それは女の手だろ」

そう言って、ふうっと目尻を下げ微かに笑った。

「それは、いつか母親になって、子を撫でる手だ」

土方が決して手に入れられないもの。手に入れられないと諦めたもの。諦めて、見ないようにしたもの。

「俺とあんたじゃ生きてる世界が違う」

鏡の向こうとこちら側のように、二人には決して越えられぬ隔たりがあった。土方には見ることしかできない。妙も同じ。互いの顔を確かめるように眺めることしかできないのだ。

「生きる世界が違うと、見えるものも違うのかしら」

妙は口端を少し上げ、先ほど男に触れた手をそっと擦る。
音もなく視線が絡まった。

「少なくとも俺には、あんたが泣いているように見えるがな」

土方は優しげに目を細め、煙草を咥えたまま喉を震わせ笑う。
その音に女の笑い声が重なった。

「奇遇ですね。私もあなたが泣いているように見えるんですよ」




終わり



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元々「太陽が〜」の八として書いていた土方+妙です。まだ四くらいを書いていたときに、先に少しでも進めておけば後が楽かなーという理由で書いていたんです。
で、途中で「これなんか違う」と。「太陽が〜」の世界観とズレてるなと。どこが、と言われたらそれまでなんですが、一度違和感を抱いてしまったらどうしても続きを書けなくて・・・。それでボツにしたというわけです。八はまた別に書いてます。もちろん土方+妙で。
このお話自体は気に入っていたのでいつか書き上げようと思っていたのですが、なかなかねー。
こんな中途半端なもんで申し訳ないんですが、ここに置かせていただきました。少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです!ウフフ!


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