日記妄想つめあわせ | ナノ

 01/16 ねえ新ちゃん。私、彼女が出来たの


今年一番の爆弾発言が穏やかな朝の風景の中、最愛の姉上から放たれた。いや、今年一番ではなく僕の十六年における生涯の中で一番の衝撃発言だろう。
口を開けたまま固まる僕を気に留めることなく、姉上は「今日も新ちゃんの朝ご飯は美味しいわね」と箸をすすめている。このまま流すのか。こんなにもあっさりと流してしまえる話題なのか。
聞き間違いかもしれないと淡い希望を胸に、僕は姉上に恐る恐る問う。

「あの・・・一体なにができたのですか?」
「だから彼女よ、新ちゃん」

にこりと柔らかな笑みを向け、姉上ははっきりと答える。
間違えてなかった。むしろはっきりと聞き取れていた。
どういうことだ。
何がどうなってらこうなるんだ。
姉上に恋人ができたというならば、僕はきっと同じように衝撃を受け食事も喉に通らないだろう。それでも僕はぐっと涙を堪え、姉上の幸せを願い応援するつもりだった。それが弟としての務めだ。
しかしそれは恋人が男だった場合の覚悟であり、それ以外の覚悟はできていない。恋人が女だった場合の覚悟などできていないのだ。

「彼女・・・ですか?」

一応、再度確認してみる。

「ええ、彼女。もう、何回言わせるのよ」

この話はおしまいとばかりに味噌汁に口をつける姉上。どうやら僕の聞き間違いでも姉上の言い間違いでもなく、本当に本当のことらしい。
姉上に恋人ができた。いや、彼女ができた。彼女だ。彼ではない。

「あの、姉上」
「なあに」
「その彼女・・・さんは、僕も知っている方ですか?」

もう朝食など喉に通らない。僕は箸を置き、気になっていることを姉上質問した。

「ええ、知っているわよ」
「へえ・・・知ってるんだ・・・」

誰だ?一体誰なんだ?
十六年間彼女がいない童貞ボーイな僕だが身の回りには女性は多い。年齢も顔立ちも様々で、誰が姉上の彼女でもおかしくはない。いや、おかしいのだが。
色んな顔が浮かんでは消えていく。あの子だろうか、それともあの人だろうか。僕はついに決意した。

「姉上。姉上の彼女のお名前は?」

これを聞いてしまえば、僕の中の何かが崩れてしまうのかもしれない。それでも聞かなければならないと思った。なぜなら僕が姉上のたった一人の家族だからだ。例えみんなに反対されても、僕だけは祝福しよう。そう心に決めたのだ。
お茶を啜っていた姉上は僕の真剣な視線に気付くと、湯飲みをことりと置いて微笑んだ。

「どの彼女の名前?」

まさか数分も経たぬうちに今年一番の爆弾発言が更新されるとは思わなかった。恋人とは普通一人に対し一人ではないのだろうか。それとも童貞の僕には知る由もない暗黙のルールがあるのだろうか。
いやそれよりも、「どの」ということは、「あの」彼女も「その」彼女もいるのだろうか。というより姉上の恋人は女性ばかりなのだろうか。その全員が僕の知り合いということなのか。
目を丸くしたまま完全に思考停止した僕をよそに、姉上は何事もなかったかのように「ごちそうさまでした」と手を合わせた。


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