01/21 初めて恋を知った(姉上)
「一番美味しいガソリンください」
その声に顔を上げると、最近では顔馴染みになった少女が立っていた。
「いらっしゃいお妙ちゃん!今日も別嬪さんだね」
「ありがとうございます。今日はおめかししてますから」
うふふと笑う少女はとても綺麗で、年若い店主はぽうっと見惚れてしまった。
「あ、そ、そうだ、ガソリンだガソリン!今準備するよ」
慌てて容器を受け取り、ガソリンを入れていく。
妙がこの店に通うようになって数ヶ月が過ぎた。毎月晴れた日にガソリンを買いにくる。決まって言う台詞は、美味しいガソリンください。
「はい、ガソリン」
「ありがとうございます」
重くなった容器を妙の前に置き、代金をぴったり受け取る。
「また来ます」
「ありがとうございました。またな、お妙ちゃん!」
妙は軽く頭を下げ、ガソリンが入った容器を抱えて去っていった。
毎月ガソリンを買いに来る理由は知らない。だが、なんとなく分かることはあった。綺麗に整えられた身なりに、手桶に入った柄杓と花束と線香。それがどんな相手か、どんな関係か知らないが、誰かに会いに行っているのだろうと思った。
それはきっと、彼女の好きな人。
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