ヅラパート | ナノ


 不確かな僕らの関係(山崎+妙+沖田くん)

チュンチュンと雀の囀りが聞こえる朝7時20分。
寝起きの山崎は共用通路にて茶髪の少年に躾られそうになっていた。


さかのぼること9時間前。

嫌味な上司にいつものごとく押しつけられた仕事を片付けて、ボロボロの状態で我が家に帰り着いたのは夜も深い頃。
集合住宅ならではの気を使いながらそっと階段をあがり、音をなるべくださないように鍵を開けた。
中に入ると嗅ぎ馴れた部屋の香りにホッとする。明日が休日ということもあり、服をかろうじて脱いだ状態のまま布団に潜りこんだ。

そして、今朝。

いつものように鳴り響く目覚まし時計に起こされる。スイッチをONにしてから寝たらしい。長年の習慣とは恐ろしいものだ。
布団から出た腕は肌色。いわゆるパンツ一枚の状態だった。これで隣に可愛い女の子でも寝ていれば既成事実の完成だが、そんなサプライズはない。何よりも、覚えてないままに既成事実完成などもったいないだろう。
そこまで考えて、山崎は溜め息を吐いた。

よっと、声を出しながら起き上がり、乱雑に脱ぎ散らかされた仕事着を見る。

(シワになってないと良いけど……)

欠伸を一つしたあと重い腰を上げ、散らばっているスーツやワイシャツを拾い集めた。

靴下やタオルを洗濯機に放り込みスイッチを押す。動きだしたのを確認してから洗面所に立ち、顔を洗う。
不意に誰かの足音が山崎の耳に届いた。あれは階段の音だと気付く。こんな時間に階段を使うのは二階の住人である山崎か隣人の志村姉弟くらいだった。
しかし。

『早くしねーと遅れやすぜィ』

独特の喋り口調に少し低めだが綺麗な声。その耳慣れない声が微かに聞こえた。

寝起きの頭で少し考えるが、どうやら好奇心の方が勝ったらしい。歯ブラシを置いてから玄関に向かい、茶色い扉をゆっくりと開けた。

少年が一人。
学ランにマフラーを巻いた姿は高校生そのものだ。
その少年は突然現れた山崎の姿に驚いたようだったが、すぐに表情を戻した。
少年の瞳が山崎を映す。
大きくて丸い瞳は隣のあの娘によく似ていたが、彼のは薄い茶色。色素の薄い髪色に同じく色白の肌はそこらの男子高校生とは一線を画している。

(可愛いなー)

およそ男子高校生に対する感想とは程遠いのだが、山崎の素直な感想だ。
隣人とはまた違う、淡い印象を与える少年は山崎を見つめたまま表情を動かすことはない。それがまた少年の整った顔立ちを際立たせ、山崎は思わず言葉を漏らした。

「キミ、可愛いねー」

まるでオッサンだ。
しかし、何度見てもそう思ってしまうのだから仕方がない。男の美人顔は管理人で見慣れているのだが、それとはまた違う感じだ。

「女の子みたい。いやー、本当に最近の高校生は「躾がなってねェな」」

可愛いね。と続くはずだった山崎の言葉は少年の響く声によって掻き消えた。

「言葉使いには気をつけた方がいいですぜィ」

同じ顔だ。先ほどまで山崎が可愛いと感嘆していた顔と同じ顔だ。しかし感じる悪寒は何だろう。

「それとも、俺が躾けてやろうかィ?」

何をするつもりか分からないが分からないままの方が良いこともある。山崎はひきつる口元に無理やり笑みを浮かばせた。

そして今に至る。




「ごめんね遅くなって!」

隣のドアが開くと同時に聞こえた声。待ちわびたその声に山崎の表情が思わず明るくなった。

「おはよう妙ちゃん」

少女が山崎の存在に驚いたのは一瞬で、すぐにいつもの笑顔になる。その表情一つで最悪だった場の雰囲気が一気に和やかなものとなっていた。

「おはようございます!今日はお休みじゃないんですか?」
「うん、休みだよ。妙ちゃんは学校?」
「はい。文化祭の準備があって、休日返上です」

と、セーラー服姿の妙がマフラーを首に巻きながら答える。可愛い色合いのそれは妙によく似合っていた。

「へえ、大変だ。頑張ってね。…えーと」

チラリと少年に視線を向けると、それに気付いた妙が「そうだ」と言いながら少年の隣に立つ。

「クラスメイトの沖田くんです。荷物が多いから迎えにきてくれたの」
「どーも」

隣に立つ美少年、もとい沖田は、短く簡潔に挨拶をする。顔と性格にかなりギャップがあるのが特徴で、それは山崎も体験済みだ。

「沖田くんか。俺は妙ちゃんの隣に住んでる…」
「知ってる。山崎だろィ」
「沖田くん!呼び捨てはダメよ」
「じゃあ………ザキ」
「もう、それだと呼び捨てと同じでしょう?」

まるで母親と子どものようだった。普段もこんな感じなのだろう、山崎は微笑ましい光景に口元を緩めた。


いってきます。と言った妙と沖田の背を見送る。
背丈の変わらぬ二人は仲良く並んで歩いていたが、不意に沖田が振り返る。
山崎と目が合っているのを確認すると、僅かにだが口元を歪ませた。

「やっぱ二人ともカワイイなー」

いつか妙を見送った朝のように、頬杖をついたまま山崎は声を漏らす。正直な感想だ。
沖田の態度はある意味分かりやすい。山崎に対して辛辣になるのは気に入らないからだ。妙に恋をする者にとって隣人山崎ほど邪魔な存在はないだろう。

「俺、有利かも」

そう考えると自然と微笑んでいた。
山崎に沖田の恋のキューピッドをしてやるつもりなど更々ない。そこまで人のいい大人ではないのだ。
山崎にとって妙は妹のように可愛い存在だった。それはただの好意なのかもしれないが、恋愛感情ではないなどと誰が言えるのだろうか。
可愛い恋敵の宣戦布告を受けるためにも、この不確かな感情に踊らされるのも悪くはないなと山崎は思う。

「……寝よっかな」

二人の背中を見送ったあと大きな欠伸し、ぽつりと呟いた。


不確かな僕らの関係
2008.12.02




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新八編より先にできてしまいましたので、こちらを先に更新しました。Oくん登場です。可愛いもの好きキャラと化している山崎ですね(笑)。
私の中での二人の関係は割とこんな感じです。大人な山崎と子どもな沖田さんってイメージ。原作沿いで考えてもそうなりますね。
大人気ない大人を書くのが楽しいです。
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