▼ シチュー(山崎と神威)
「ザッキーおかえりー」
「うあ!!」
自宅の玄関入って、キッチンを通り抜けて、自室に入ったら人が居た。
「は、あ、神威くん?あー神威くんか。うわービビったーついに見たかと思ったー」
思わず落としそうになったカバンを持ち直しながら部屋へと入る。
「あ、もしかして鍵開いてた?」
「ここ」
「そこかー。よく忘れるんだよな」
神威がベランダを指差したのを見て納得した。山崎が鍵を掛け忘れるのなら大抵そこだ。
「ねえザッキー。ここってさ、たえの部屋と隣同士なんだね」
「そうそう。たまにベランダで会うよ」
「朝とか?」
「そう」
「寝起きカワイイよね」
「ねー」
スーツから部屋着に着替えながら無難な返事をする。確かに可愛いのだが、真面目に答えたら色々と問題があるだろう。
「そういや俺に何か用があるんじゃないの」
「用っていうか、今日オネーサンもメガネくんいないから夕飯ないんだよね」
「新八くんは部活だっけ。妙ちゃんは?」
「バイト。最近オネーサン忙しいから、あんま相手してくれない」
「じゃあうちで食べてく?どうせ多めに作るつもりだったから神威くんの分もあるよ」
「やっぱりザッキー、話早いね。神楽も呼んでいい?」
「もちろん」
くたくたの部屋着に着替えた山崎は「ちょっと待っててね」とキッチンへと向かった。
ここに住む大人は桂と山崎だけだ。子ども逹は互いに協力し助け合って暮らしているが、こうやって助けを求められたら手助けするようにしている。
「新八くんがいないなら代わりに何か置いていってそうだけど」
スーパーの袋からジャガイモと玉ねぎを取り出して並べる。
「チンってするやつならあったよ。前ならそれで良かったけど、なんかここに居ると作ったのが食べたいんだよね」
「分かる分かる。独り暮らしが長いと結局自炊になるからね。あー冷蔵庫から肉とって」
「はーい」
「ニンジンも」
「えー」
ぶーぶーと不平を唱えながらも、神威は言われた通りのものを山崎に手渡した。
「オネーサンが前に食べさせてくれたけど、あんまり好きじゃなかった」
「ニンジン?」
「そ。カレーに入ってた。今日はカレー?」
「シチュー」
大きめの鍋を熱して余っていたバターを入れて溶かす。洗って切った野菜と適当な大きさに切った鶏肉をじっくりと炒めれば、それだけでいい香りだ。
「ザッキー作るの速いね。メガネくんはゆっくりだから」
「新八くんは丁寧なんだよ。俺は独り暮らしだし、食えりゃあいいって感じだからなー」
「オネーサンは楽しそうに作るから見てて面白いな」
「妙ちゃんは料理自体が好きだからね」
「ザッキーは料理よりたえが好きだけどね」
「へ!?」
鍋の中に浮くアクをすくっていた手が止まる。変な声がでたが仕方がない。
「たえ好きでしょ?」
「そりゃ好きだけど」
「うん」
「いや、色々ある好きの一つっていうか、妙ちゃんは未成年で俺は大人だからそこら辺はデリケートな問題なのもあって、そう簡単には」
「あ、ザッキー前見て、なべから何か溢れてる」
「うわ!!」
少し目を離した隙に鍋から白い泡が溢れだしていた。慌てて火を弱める。
「大人ならもっとどっしり構えなよザッキー。さっきから驚いてばかりだね」
「ねー・・・」
2013/10/10
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