ヅラパート | ナノ


 1月1日(山崎と桂)

※お年玉にあるヅラパートと同時刻です






「あああ!!!」

日付が大晦日から元日に変わった頃、アパートメント桂の入り口で頭を抱える男がいた。

「ちょっと・・嘘だろ・・・」

独り言を喚くにしては、時と場合と場所が適切ではない。普段なら常識のあるタイプの山崎だが、今回ばかりは自制がきかなかったようだ。

「そこに居るのは山崎か」

ちょうど部屋から出てきた桂が山崎に声をかけた。少し驚いているようで、いつもの硬質な表情が少々和らいでいる。それもそうだろう。年越し早々、門の前でぶつぶつと呟きながら頭を抱えてうずくまる男が居れば誰でも驚くはずだ。

「あー桂さんですか。ただいまかえりましたー」
「おかえり。遅かったな」
「ええ・・・年末の人混みを舐めてました。もっと早く帰るはずだったのに」
「そうか」

桂が山崎の肩を軽く叩き、「お疲れさん」と労う。

「みんなと年越しするつもりだったのに・・・あー」

急に職場へと呼び出され、駆けつけたのは昼過ぎだった。それはいい。しがないサラリーマンならば上司は絶対だ。仕方ない。
しかし、まさかこんなに遅くなるとは思ってもみなかった。
大晦日だからか駅は人で溢れ、行くのも苦労したが帰るのはそれ以上に大変だったのだ。
そこまで考えて、勢いよく顔を上げる。

「桂さんなにしてるんですか。せっかくの年越しを子ども達だけにして」

桂はついさっき部屋から一人で出てきた。つまり、山崎と同じように桂も一人で年を越したのだろう。
ヅラパートの住人は、何かあってもなくても集まることが多い。年末年始はそれぞれ自由に過ごすのだが、年越しだけは集まって皆で蕎麦を食べ、新しい年を迎えるのだ。(結局、そのまま用事がなければ誰かのところに集まってしまうことが多い)

「片付けに少し手間取ってな。今から向かうところだ。それに子どもらの事は頼んである」

腕組みをした桂がアパートを見やり、軽く顎を上げる。二階の真ん中。そこが妙達の居る部屋だ。

「頼んでるって、誰か来てるんですか?」
「ああ。お前の客だ」
「俺のお客さん?」

頭をフル回転させて客とやらについて考えてみるがよく分からない。いや、疲れているので頭が働いていないのだろう。

「先に行くぞ」
「あ、俺も行きます」

山崎はアパートの門の鍵を締め、桂の後を追った。
頭の中で「お前の客」について考える。が、山崎はすぐに考えるのを止めた。誰でもいい。誰であろうと桂が子ども達の所に居ても良いと判断したということは、決して悪い人間でないのだから。
そんなことを考えながら階段の手すりに掴んだとき、上に居る桂が振り返った。

「山崎」
「なんですか」
「あけましておめでとう」

それだけ言い終えると、またすぐに歩き始める。
山崎はゆっくりと瞬きを繰り返した。びっくりした。でも、それは一瞬で。

「桂さーん。こちらこそあけましておめでとうございまーす」

階下からののんきな声に、桂からの反応は特にない。

「聞こえてますかー。桂さーん。妙ちゃんをお嫁さんにくださーい」
「嫁などまだ早い。それに煩い」
「よし、聞こえてた」

へらっと笑った山崎は、階段を上がり、自分の部屋を通り過ぎる。
そして明るい声が聞こえる戸の前に立ち、ピンポーンとチャイムを押した。



2012/7/12
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