生きるのは難しい。何もしなくとも悲しみの雨は降り注ぐ。
 寂しい夜を我慢して、乗り越えても、日が昇りカーテンを開ければ憂鬱の朝がやってくる。
 これから始まる一日とどう向き合っていけばいいのか、その答えを見つけることの出来ずに分からないまま、惰性の今日と戦わなくてはならない。
 第一の試練は居心地のいい布団からの脱出。それは人肌恋しい寒い日こそ辛いもので、布団との別れは恋人との別れよりもずっと切なく悲しい。僕はこのほかにも沢山ある試練の中でも、この瞬間が一番苦手でそしてなによりも大嫌いだった。過去の対戦結果は
おそらく黒星の数の方が多いに違いない。そんな強敵相手から始まる、僕の一日。

 布団という抜け殻を振り返れば昨日の自分が、居るはずもなく、日付が昨日から今日の変わっても鏡に映る自分は昨日までと変わらない、いつも通りの自分だ。
 おはよう、自分。今日も君が大嫌いな一日が始まってしまったね。そう、こっそり挨拶を投げかけてみるが、もちろん鏡からの返事はない。不機嫌そうにむすっとした自分の顔がそこにあるだけ。
 特別整っているわけでも特別歪んでいるわけでもない、いわゆる平凡顔。強いて言うなら歯並びが悪いのが気になるが、それももの凄く悪いわけでもなく、周りからみたら気にもとめないような些細な欠点。自分だからこそ気が付く、自分だけが知っている、自分の顔の嫌なところ。つまりは本当に、ただただ普通の顔なのだ。そんな些細なところが気なってしまうくらいに。
 だからこそ僕はこの面白味のない自分の顔のことが好きになれないのだ。くだらない事を気にしてしまうから。
 だからこそ僕はこの面白味のない自分の顔に毎日のように告げてやるのだ。「本当に不細工な顔だよね」と。

 そうすると鏡の中の自分が無言で返事を返してくる。
 「それはお前のことだろう」と。
 平凡なのも、普通なのも、面白くないのも、くだらないのも、不細工だと罵っているのも、それは全てお前のことだろう。鏡の中の自分が言う。
 その瞬間から僕は、そんな大嫌いな自分とどう付き合っていくのかという問題にも悩まなくてはいけなくなる。

 そんな長い一日の始まり。




 生きるのは難しい。何かがなければ喜びの飴は与えてもらえない。
 幾多の試練を乗り越えて、なんとか歩きだした通学路。学校へと向かう途中にある信号機ではたくさんの人達が赤から青へ色が変わるのを待っている。この信号機の瞬間を僕は心の中で、テレビでよく見るヌーの大群の大移動、それも川渡りの瞬間の映像に似ている思っている。そんなヌーの大群の中に僕も信号機を渡るために混ざるわけなのだが、なにしろ周りにいるのはヌー、ウシなのだ。同じ生き物とはいえ突然暴れ出すかもしれないようなウシに囲まれて、落ち着けるわけがない。
 気をそらそうと前に意識を向けて、目の前をもの凄い勢いで通り過ぎていく川の流れを見つめてみる。トラック、タクシー、ワゴン車、外車に軽自動車。時々、朝からお疲れさまなんて言いたくなるような緊急自動車なんかも横切っていくこともある。
 たまたま今日も僕の目の前を赤いランプを光らせた救急車が通り過ぎ、それをふと何気なく目で追った後に後悔した。救急車の白い車体に、あきらかに塗装ではない赤色が、それはもうべったりとくっついているのに気がついてしまったからだ。
 その量からして救急車の車内には恐らく、ひどい怪我を負った人が乗っているのだろう。もしかしたらその人は……。その後の事を考えてしまったらもう、お腹の底から胸の辺りまでどうしようもない気持ちがこみ上げてきて、僕はその場に立っていられなくなってしまった。
 すぐにでもうずくまってしまいたかったが、信号待ちの大群の中、周り迷惑になりかねないためそれを我慢して重たい両足を気持ちで引っ張り、やっとの思いで歩道の隅へとたどり着く。
 ガードレールに腰掛けて数回呼吸を繰り返してみるが、けたたましい心臓、どうも気持ちが落ち着かない。さっきとは違う、落ち着きのなさ。まるで胸が潰れてしまいそうだった。

 見れば僕がさっきまでいた交差点では沈黙の赤から喧噪の青へと色が変わり、彼らは群をなして川を渡っていく。
 自分の行くべき場所へと歩んでいく足に、足。そうやってちゃんと歩んでいける偉大さに、僕は尊敬の気持ちすら感じてしまう。蟻のように小さな僕は、誰かの足に踏みつぶされてしまう前に、こうやって立ち止まっているのがお似合いだ。また悲しみが深まる、こんなところに腰掛けて、自分の足で立つことすら出来ない足と、足。

 しばらくそうやって下を向いていれば時間は刻々と過ぎて、ふいに「遅刻」という二文字を思い出す。慌てて歩きだそうと前を見れば、人の波の合間に見えたそれ。
 通行の邪魔にならないようにと交差点の隅にそっと置かれてあった、萎れかけて花弁の落ちた小さな花束であった。
 不吉。

 嫌なことは立て続けに起こる。確かにそうだった。
 因みにショックで人は目の前が真っ暗になるも本当で、信号機がまた赤に変わったのも、今度は行き交う車の合間に見えていた花束も、そんな花束を気にもとめていない様子の人々も、視界の中から消えていった。





 その後、やむを得ず担任の先生へと遅刻の連絡をしていた「僕」は、周りの世界(人々)とどう接すればいいのかという一番の難解問題を見て見ぬふりをしてその場を通り過ぎた。
 それからその花束がどうなったのか、救急車の赤が無事青へと変わったのか、僕は知らない。





***
 生きるのは難しい。生きているだけでたくさんの問題と遭遇する。その問題全てが僕にとっての試練で、それを乗り越えなくては前へは進めない。
 例えばそれは明日の天気だったり、今日の服装だったり、昨日の喧嘩だったり。怒濤の如く押し寄せてくる感情は、他人の手によってごちゃごちゃとかき混ぜられ、そして目眩がするほど複雑になってゆく。

 土砂降りの雨で中止になった遠足も、首が締まって息苦しい学ランも、あの日夕暮れの校庭であなたに言われた忘れられない一言も、あと何度悲しみを乗り越えれば僕は楽になれるのだろう。
 生きるのは難しい。涙が出てしまうほどに。

(2)「超越した客観視こそ人生を楽に生きるための鍵ですよ。悲しむのに疲れたのなら、悲しみを感じる心を閉ざして、世界を客観的に見てみましょう? さぁ、世界を額縁の中へと閉じこめて。」

(3)「人生を楽に生きたいのなら、もっと楽観的に物事を考えないと。そんな風に辛気くさいこと考えてるから人生が辛いんだぜ?もっとポジティブに!」

(4)「自分がどんな考え方をしていても、他人に振り回されてちゃ意味ないんじゃない?だったらもっと他人をどううまく利用できるかを考えないと。自分の都合に他人を上手に利用してこそ素晴らしい人生っていうんだよ。」

(5)「世界の真理、人間の心理、心裏事情から気になるあの子のパンツ事情までなんだって、その全ての答えは二次元に詰まっている!人生楽しく生きたいのなら、幻想世界からまず楽しまないとっすよ。」

(6)「人生を楽しく生きたい?だったらとりあえず女の子を楽しませてからじゃないと話は始まらないな。女の子一人を満足させられない童貞に、自分自身を満足させられるかって。女の子いてこその自分、分かったか?」

(7)「楽しんでばかりじゃ人生とは呼ばないぞ。人生楽ありゃ苦もあるさ、その全てを乗り越えられる誠実な大人になるんだな。……とりあえず二次元に傾倒し過ぎるのだけはやめてくれ。現実が泣くぞ。」

(8)「人生楽に生きるなんて簡単ですよ。誰かの下に付けばいい。誰かに従っていれば面倒事はその人が全て背負ってくれますから、こんな楽な生き方はないですよね。それにそいつに利用価値がなくなれば、その時は遠慮なく牙を剥く。あの時の快感ったら、もう。ね?面白そうでしょう?」

(9)「人生、即ち強さ、強さは正義。強さは貴方に最高の幸せをもたらすでしょう。」

(10)「私には愛さえあればいいの、愛さえあれば幸せよ。例えそれが叶わなくとも、私の中に存在すればそれで全てが満たされる。あぁ、もう、こうして語っている瞬間すら愛に満たされたくて仕方がなくなるわ。だから、ねぇ、貴方が私を愛してくれる?」

 さぁ、僕らが愛しの帝人君。
 君はどの人生を選ぶ?僕らが差し出す仮面を被って、生まれ変わった自分で素晴らしい人生を歩むんだ。。
 それが僕らの、生まれてきた理由なのだから。


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