約束ごと1つ


海兵の青年が叫んだ瞬間、シャチは反射的に私の手を引いて、人ごみの間を縫うようにして駆け出した

「っだー!絶対ぇ、船長にバラされる!」

やべー!と顔を青くするシャチに手を引かれたまま後ろを振り返れば、海兵の青年が待てー!と叫びながら後を追いかけて来ていた。このままでは、騒ぎを聞きつけた他の海兵が集まるのも時間の問題だ。そうなれば、事が大きくなってログが溜まる間は島じゃなく海の中に潜水して過ごすことになってしまう。そんなの嫌すぎる!振りきれないとなれば、何処かに誘い込んで一気に叩いてしまうのが定石

「とにかく何処か路地裏にでも入って、そこで片付けよう!」
「俺が引きつけるから、コノハは上手く撒いて船に戻れ!」
「私も戦うに決まってるじゃない!」

ふざけてんじゃないですよ。とシャチに引かれていた腕を逆に引いて更に加速すれば、シャチは慌てながらも隣に並んだ

「海兵の相手くらい、俺1人で十分だ!」
「それを言うなら私1人でも大丈夫だから、シャチが先に戻ればいいでしょ?」
「別に倒すのには変わりないんだから、俺がやっても関係ないだろ!」
「じゃあ、私でも良いじゃん!」

ぎゃーぎゃーと俺が私がを繰り返しながら、人通りのない路地裏を左に右へと走っていれば、気が付けば前方に聳え立つのは背の高い建物

「って、これ行き止まりじゃねーか!?」
「シャチと言い合ってろくに周り見てなかったから…。」

飛び越えられないことは無いけど、もうどうせなら此処で手を打つのも良いだろう。シャチと2人、目を見合わせて後ろを振り返れば、追い詰めたと、いつの間にか増えた海兵の青年が剣(カトラス)を抜いた

「シャチ、こうなったら仕方ないよ。2人でパパっと片づけてアイス食べに行こう。」
「しゃーねぇか。」

この狭い路地に男ばかりで正直、むさくるしいな…。シャチの出番を奪う形で申し訳ないけど、此処はてっとり早く忍術でも使って一気に片づけてしまおう。私たちが出航するまで目を覚まさないように、雷遁で気絶させてしまえば大丈夫だろう

「覚悟しろ、ハートの海賊団!今日こそその首貰うぞ!」
「やなこった。」
「そうだよ。私も仲間になったばかりで、牢屋になんて入れられたくないもんね。」

そう反論しながら、私は胸の前で素早く印を組んだ

「雷遁… っ、!?」

バチリ。雷が右手を覆ったのを確認し地面を蹴ろうとしたその瞬間だった。何を思ったのか突然、シャチが目前に割り込んで来て剣を振り上げた海兵をそのまま蹴り飛ばしてしまった

「ちょっと、シャチ!危ないじゃない!」

突然なシャチの行為に声を荒げるも、シャチは応えることなくまた1人、海兵を蹴り飛ばしてしまう。それにムっとしながら新たに印を組めば、またしてもシャチが割り込んできては海兵を倒してしまった。印を組んでも組んでも邪魔をしてくるシャチのせいで、いつの間にかあれだけいた海兵も、全てシャチの手によって片づけられてしまっていた


「…………。」
「…………。」

じとり。あれから路地裏を出て、近くの公園のベンチに2人並んで座った。僅かに冷や汗を流しながら前だけを見据えるシャチの横顔をじりじりと睨み付けるも、それでもシャチは口を開くことはなかった。と言うよりも、何て言ったら良いのか分からない、そんな顔をしていた。だから、何となく。何となく、そうなんじゃないかな、と思っていたことを私は口にした

「シャチは私が忍術を使うのが嫌なの?」

その言葉に僅かに反応を見せたシャチに、どうやら正解の様だと私は勝手に結論づけた

「どうして?理由を言ってくれないと分からないよ。」

話してよ。そうして追及すればシャチは、あーその…と歯切れの悪い言葉を零し、最後には観念した様に口を開いた

「だって…その忍術を使いすぎるとお前、…死んじまうんだろ?」

そう強張った声で、深刻だとばかりに重たい声を出したシャチに私は、幾分か固まって「はぁ?」なんて間抜けな声をあげてしまった。いや、だってそんなすっ飛んだ話…

「それは極端な話であって、流石に私も自分のチャクラの量くらい弁えてるよ?だから使いすぎて死ぬなんてことは流石に無いんだけど。」
「だけど100%だって訳じゃないんだろ?」
「…まぁ、確かに絶対ではないけど…。」

シャチは、だから忍術は使ってほしくない…。そう言った。でも、忍術は私の一部であって、切っても切れない存在だ。忍術を使わないなんてこと自体、想像がつかないし、出来ないのが答え

「シャチが心配してくれてるのは凄く分かるし、嬉しいよ。だけどこの忍術は、私が小さい頃から必死に修行して手に入れた力なんだ。たくさん努力して習得した忍術は私の誇りだよ。だから、それを手放すことなんて出来ないよ…。」
「コノハは俺たちの仲間だろ。…心配するのは当たり前じゃねえか。」

シャチの言うことは最もだ。私たちにとって忍術はいつも身近にあって、使い続けてきたものだ。休めば大丈夫だと言っても、忍び意外の人間が見たら、これは使い続けることで身体に負担がかかる術と言っても過言ではないんだろう。それを仲間が頻繁に使っていれば、心配でたまらなくなるのも当然のことなんだ

「シャチ、約束するよ。忍術を使って倒れそうになったら、すぐにシャチに伝える。」
「倒れそうになる前に言えよ。」
「うん、分かった。」

すかさず突っ込んでくるシャチに小さく笑ってしまいながらも、私は頷いた。シャチは過保護なんだろうか。それともただの心配性なのかな。でもそれが嬉しくて、私はもう一度、約束するよと頷いた

「使いすぎてぶっ倒れるとか、ぜってーに許さないからな。」
「うん。怒られるのは嫌だから、すぐにシャチに言うよ。」
「約束だからな。」


約束ごと1つ
(渋々だけど頷いた彼は、「アイス食いにいくか!」次の瞬間にはそう言って笑った)


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