春日和の午後は


「いい天気だねぇ。」
「うん、いい天気だねぇ…。」

ぽかぽか、春の陽気が心地良い午後のこと。与えられた雑用の仕事もひと段落つき、ふらりと甲板へと出ればベポが気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。その癒される光景と温かい陽射しにつられてふらりとベポへと近づけば、こっちにおいでと、ベポは自分の腕の中へと招待してくれた。そのまま後ろからぎゅっと包み込まれれば、特大のふわふわ毛布に包まれてる様な気持ちになってくる。何だろうこのご褒美は

「ベポ。私、今なら幸せで死ねる…。」
「えっ!だ、ダメだよ!コノハが死んじゃうなんてやだよ!」
「…て、天使や…っ、」

私の冗談を真に受けて、嫌だ嫌だと首を振るベポに真底癒される。ごめんね冗談だよ。と伝えれば、ベポはびっくりしたと安堵の息を吐いた

「コノハ。お前、ベポに抱えられてるとどっちが、ぬいぐるみか分かんねーな。」
「シャチ!俺は、ぬいぐるみじゃないよ!」
「わりィ、わりィ、」

俺も混ぜてくれーと、休憩だろうシャチがごろんと私たちの隣に大の字で寝転がった。そのまま太陽を見上げられるのはサングラスのお蔭か、少しも眩しい素振りを見せずにシャチは、青い青い空を見上げていた

「侮るなかれ。お日様とベポのふわふわダブルコンボは犯罪級の癒しだからね。」
「あ、それはちょっと羨ましいかも。」

回されたベポの掌の肉球をぷにぷにと楽しんでいれば、くすぐったいよとベポが小さく身を捩った。それに私の加虐心が小さく揺さぶられ、一層のことぷにぷにとしていれば、やめてやれよとシャチに小さく頭を叩かれた。ゴメンねベポ…

「だけど残念、此処は私の特等席だからね。シャチには譲ってやんないよ!」
「いや、そこは船長の特等席だから。」
「え、マジで!?」

な、何だって!?そうなの!?と確認する様、ぐりんとベポを振り返ればベポはそうなんだと照れたように笑みを浮かべた。畜生!可愛い!だけど、まさか船長までもが、ふわもこ可愛い者好きだったなんて!何だそれはギャップ狙いなのか!でも船長の特等席と言われてしまえば何だけ気が引けてしまう…。きっとお気に入りのものを取られるのを何よりも嫌う船長だから、この現場を見られてしまえばあまり良い顔はされないだろう。でもこの癒しスポットを逃すのはもっと嫌だ…っ、

「……船長は今、自室でお休み中だから良いんですぅ…今だけは私のベポだもん…。」

要は見つからなければいいんだよ。あー、ふわふわぬくぬく幸せ…

「だから、ベポもシャチも船長には内緒だからね!」
「…ほう、何が俺には秘密なんだ?」

ピシリ。暖かい空気が一気に凍った気がして私はぎゅっとベポの腕に抱きついた。振り返らなくても分かる負のオーラが、背後で禍々と渦巻いている。シャチなんて口を真一文字にして、冷や汗ダラダラ垂らしながら固まっていた。各言う私も全く同じ状況で、その中でベポだけが相変わらず周りに花を散らしていた

「あ、キャプテンもう起きたの?早いねぇ。」
「そろそろ上陸だろ。ベポ、仕事してこい。」
「アイアイキャプテン!」

じゃぁ、行ってくるね。そう言ってあっさりとベポの腕から解放された私は、ただ無情にも去っていくベポのドスドスと言う足音を聞いて、内心で涙した。シャチにおいてはいつの間に起き上がったのか、素晴らしい姿勢でピシリとその場で正座をしていた。この野郎!

「俺の気配にも気づかないとは、随分とだれてんなぁ…あぁ?」
「いやー流石船長!気配を消すのがお上手ですね!」
「喧嘩売ってんのか?」
「滅相もない!」

寝起きの不機嫌さも相俟ってか、船長の機嫌は絶好調に下降気味だ。これから島に上陸すると言うのに、あまり機嫌を損ねたくはない。上陸禁止とか言われたら私、それこそ死んじゃう。そこをぐっ、と耐えて次はどんな暴言を頂くのだろうと身構えていれば、意外にも降ってきたのはお札の束が1つ

「…え、船長?」
「つなぎ作りに行くんだろ。それ持ってシャチと仕立て屋に行ってこい。」
「船長ォォォ!」

思いもよらない船長の行動に、私は札束をぎゅっと胸で握りしめてお礼を言った。ありがとうございます本当にありがとうございます!明らかにお釣りがくるであろうそれは、きっとお小遣いだよね!遊んで来て良いよって、美味しい物食べて来て良いよってそういうあれだよね!

「おら、お前らもさっさと上陸の準備してこい。」
「「アイアイキャプテン!」」

相変わらず不機嫌なオーラを撒き散らしている船長だけど、こういうところはちゃんと船長なんだなって、自然と笑みが浮かんでしまった。何だ。正直、ただの怖い船長なんだと思っていたけど、良い人なんじゃないか。そう言ってしまえば確実に、バラされてしまうんだろうけど。シャチと2人、持ち場の船底へと駆けて行きながら、遠くの方に小さく浮かぶ島へと視線を向けた。確か次の島はトロピカル島。あの島こそが、私が海賊として、ハートの海賊団の一味として上陸する初めての島だ。一体、どんな冒険が待ってるのだろうか。久しぶりに感じるわくわく感に、私の胸は一層と高鳴っていた


春日和の午後は
(島が見えたぞー!)


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