挨拶代わりの


「相手は俺が務めよう。」

ペンギンはそう言って自らの得意とする武器なのだろうか。銃を一丁、携え私の前へと進み出た

「良いだろう。」
「おい、ペンギン!」

甲板の中央へと移動するペンギンに従い、私もそこへと足を向ける。船長の許可が出た今、誰も反対する人物はいないと思ったけど、どうしてかシャチは納得がいかないみたいだ。ぎゃーぎゃー声をあげるシャチはベポに宥められながらも、苦虫を噛みつぶした様な苦い表情を浮かべていた

「ルールは相手の膝を床に着けさせれば、それで勝ちだ。お前が勝てばこの船の乗船に納得してやる。俺が勝てば、次の島で船を降りてもらう。」
「単純明快だね。それで良いよ。」
「俺の武器はこの銃1つ。お前は?」
「私は忍術だけ。この身体1つで戦うよ。武器は使わない。」

ニヤリ、口端を釣り上げて挑発的な笑みを作る。それにピクリと、ペンギンの肩が微かに揺れた

「後悔するなよ。」
「そっちこそ、私は負けないよ?」
「…いくぞ。」

刹那、ペンギンが私の視界から外れる様にして右に身体を転がし、ダン、と床で1度回転する。そのままの勢いで体制を整えればは、すぐさま銃を構え躊躇なくそのトリガーを引いた

ガウンッ

瞬きするよりも早いその行動に、賞賛の意味を込めて私は内心でひゅーと吹けない口笛を吹いてみせた。真っ直ぐに私の心臓へと向けられた銃口。そこから立ち上る一筋の煙に、寸分の狂いもなく穴の開いた私の心臓。なるほど、彼は本気で私を殺しにきてるってことか

「コノハっ!ペンギン、お前!」
「コノハーーっ!」

シャチとベポの悲痛な声が甲板に響き渡った。だけど心配しないで。私がこんなに簡単にやられる訳ないじゃないか。心臓を真っ直ぐに撃ち抜かれた私は、そのまま倒れることもなくボフンと煙を纏い姿を消した

「っは、え、コノハは!?」
「今のは影分身。さっき見せたでしょ?あれと同じ。」

見張り台からひょっこり顔を覗かせた私を、シャチとベポは、いつの間にと真底驚いた表情をして見上げている。私はそれに、にこりと笑い返しながら、手摺を乗り越えペンギンの前に着地した

「今のは確認したかっただけ。ペンギンが本気で私を殺しに来てるのかどうか。」

案の定だったけど。そう言って笑う私に、ペンギンも僅かに口元に笑みを浮かべた

「いつから影分身をしていたんだ。」
「シャチとベポに船上案内してもらう前だよ。」

そう言えば、ペンギンはどうしてそのタイミングで影分身をしたのだと問うてくる。私はそれに、人差し指をピっと1つ上に立てながら、にんまりと笑った

「忍びの本分は情報収集だよ。ペンギンが私のことを疑ってたのには気づいてたから私はこの甲板に残って、船長とペンギンの会話を盗み聞きすることにしたの。勿論、シャチたちには私の分身を船上案内に連れてってもらってね。だからさっき、ペンギンが船長に私と戦う許可を貰ってたことも知ってたの。」
「じゃあ、俺たちが案内したのも意味なかったって言うのか!?」
「それは大丈夫。遠くにいたって、分身が見たこと聞いたことも、ちゃんと私の中に入ってくるから。」

その言葉にシャチは便利なもんだなと感嘆の息を吐いた

「そもそも、海賊船に女は不要だ。」
「見事な男尊女卑だね。お言葉ですけど、今の時代は女性の海賊だっているんじゃないの?」
「それは他船の話だ。俺が言っているのはこの船には不要だと言っているだけだ。」
「ふーん。」

どうもそれだけじゃない気もするけど。私は、まぁいいやと言葉を投げて、スっとペンギンに鋭い視線をぶつけた

「さ、話は此処までにしてさ。そろそろ再開しようよ。」
「そうだな。」

そうして銃のトリガーに指をかけようとするペンギンに、私は「今度は私からいくね。」と言って笑みを向ける。その瞬間、ペンギンがぐっと警戒心を強めるのが分かった。だけど今更、引き金を引いたって間に合わないよ。私は一瞬でペンギンとの間合いを詰めて、トリガーの隙間に千本針を差し込んだ。ガチと言う金属同士がぶつかる音がするだけで、弾は射出されない。チっという舌打ちがペンギンの口から漏れ、私はそのまま首をのけ反り、私よりも背の高いペンギンの額へと思いっきり頭突きをかました

「…っぐ、」

ガツン!という鈍い音が響き、その勢いで蹈鞴を踏むペンギンに私は、追い打ちをかけるように足払いをかける。しかしそれを見越していたのか、ペンギンは上へとジャンプしそのまま回し蹴りを私の側頭部目がけて繰り出してきた。行き成り頭狙うとか本当に容赦ないな!私がそれを両腕をクロスすることで防げば、手を付き着地したペンギンは、お返しとばかりに低い体勢から足払いをしかけてきた

「ペンギン、銃だけじゃなくって体術もいけるんだね。」
「銃じゃ接近戦には不利だからな。」
「それもそう、か!」

難なく上へ飛ぶことで足払いを避けた私は、今度は私の番ね!とペンギンの顎下を蹴り上げた。見事に決まったそれにペンギンは、軽く上へと吹き飛び苦痛の声を漏らす。それにすかさず追い打ちをかけるように腹を目がけて、思いっきり足を蹴りだした

「…ぅぐ、」
「油断大敵だよペンギン!」
「わああああ!ペンギンーッ!」

勢いよく吹き飛び、甲板の隅に詰まれていた空き箱に背中から突っ込んでいったペンギンに、ベポとシャチの悲痛な声が響いた。私はそれを追わずにタッと甲板を蹴り上げ、マストの1番高い所の柱へと足を付ける。足に溜めたチャクラのお蔭で、そのまま重力に従って落ちることはなく、私は手を組んだ

「風遁・烈風掌!」

印を組み終わった私は、パンっと手のひらを合わせ、手の内に圧縮された風を思いっきりペンギンに向かって放った。途端、ゴォっという激しい風の音が辺りを包み、ペンギンの身体を一瞬で空へと攫っていく。警戒の色を強めるペンギンに私はマストを蹴り、ペンギンの真上に飛び上がった状態で新たに印を組んだ

「火遁・豪火腕の術!」

振り上げた右腕に真っ赤な炎の渦がぐるりと纏わりつき、チャクラの炎で通常の10倍も強化された腕力のお蔭で、今なら何でも砕けそうな気さえする。きっとこれを打ち込めば、ペンギンもただじゃ済まないだろう。だけどペンギンだって私を殺すつもりでかかってきてたんだ。だったら容赦なんてする必要はないし、海賊の世界でそんなお情けをかけられることは屈辱的だろう。だったらと私は、ごめんね。にこりと口元に笑みを浮かべて、小さく舌打ちをするペンギンの腹に向かって思いっきり、拳を振り下ろした


挨拶代わりの
(ドボーン!と海に沈んでいくペンギンを見て私は思い出した)

「あ、やば!膝つけなくちゃいけなかったんだっけ?」



[*前] | [次#]