神様どうか彼らを見捨てないで
彼らからは甘い香がする。それは優しくて安心する香。僕はこの香が何よりも好きで、愛しかった



「天女が皆を奪ったんだ」
「はっちゃんが笑ってくれなくなった」
「兵助が無視するんだ」
「勘ちゃんが構ってくれないんだ」


彼らは口々に不満を涙と一緒に零し、僕の夜着に染み込ませていく


「大丈夫。きっといつか皆はお前たちの元に戻って来てくれるさ。お前たちの絆はそんなに軽いものではないだろ?」


そう諭せば彼らも幾分か落ち着き、夜が明ける頃にはいつもの笑顔で部屋を出て行った



それから4日が経った。彼らは僕の部屋に来て、断りもなしにぎゅうと抱き着いてきた。だけど、前とは違い彼らは悲しそうに涙なんか零してはいなかった


「天女が月に帰ったんだ」
「はっちゃんが笑ってくれた」
「兵助が話しを聞いてくれるんだ」
「勘ちゃんが構ってくれる」


幸せそうに彼らはぎゅうぎゅうと僕の腹に腕を回しては幼子の様にコロコロとした笑みを零した


「言っただろ。お前たちの絆は強いんだ、ちょっとやそっとの事で壊れたりしないよ。」


優しく頭を撫でてやれば、彼らは今までで一等幸せそうな笑みを浮かべた


「ありがとう夢。大好きだよ。」
「ありがとう。私も夢のことが大好きだ。」
「僕もお前たちのことが大好きだよ。」


彼らは本当に幸せそうだった。だから僕は気付かないふりをしたんだ

彼らから香る甘くて優しい香に混じった


錆びる様な酷く苦い鉄の香を…


神様どうか彼らを見捨てないで
(僕は素知らぬ顔をして、彼らごとこの腕に抱きしめた)
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