バイオレンス・ハニー
「…う、えぐっ、えぐっ、、」
「…ねぇ、何でそんなになってまで水谷は日乃と付き合ってるの?」
「だって、好きなんだもん…。」
「だもんって、男が言うなよ…。」


そう言いながらも、殴られた頭を撫でてくれる栄口の手にまた涙が溢れてきた


俺の彼女は凄く可愛くて、強がりで凄く怖い。その可愛い外見とは裏腹に、結構な毒舌だったりするわけで。殴られるのもしばしば、泣かされるのも日常な感じだったりするのだ


「水谷くん、このクッキーあげる!」
「え、本当に良いの!?わーありがとう!」


どうやら今日、9組の女子たちは調理実習があったみたいで、7組にも関わらず何故か俺の腕の中はクッキーでいっぱいになっていた。だけど甘いものが大好きな俺にとっては、どうでも良い嬉しいことだったりするわけで。俺は、能天気に何も考えずにそれを全部受け取っていた


「水谷くんって本当に、甘いもの大好きなんだね。」
「うん、だって甘いもの食べたら幸せになれるじゃん。」
「あはは、そうだね。水谷くんって本当に可愛いよね。」
「…え、そんなことないって!」


うわー、今絶対に俺顔赤いよねっ!?そんなストレートに可愛いとか言われないから、すっげー恥ずかしいんですけど。危ない危ない、こんなとこ夢に見られたら今日も俺、命ないよね


「じゃぁ、またね水谷くん。」
「うん、ありがとうね。」


俺は女の子を見送り、机の上にいっぱいになったクッキーを鞄にしまう。今日のおやつは大量だ。なんて上機嫌な俺に、うっすらと影がかかった


「可愛い文貴くん、ちょっと屋上にでも行かない?」
「…あ、は、はい…。」


拝啓栄口、今日もお世話になるかもしれません



「あでっ!」


屋上に着くなり早々と頭を叩かれた


「ちょっと、何デレデレして、情けないったらないっての!」
「ゴメン…。」
「何で謝るのよ。」


だって怒ってるから…って言ったらまた頭を叩かれた。同じ場所なだけに、地味に痛い


「…でも、やきもち妬いてるから怒ってるんでしょ?」
「…は!?…何バカなこと言ってんの!?」


クソレフトなんて落ち込む言葉を投げかける彼女だけど、そんなこと言う夢の耳はうっすらと赤い。それを見てると、少しだけ、少しだけ苛めてみたいなんて考えが頭を過る


「怒ってるじゃん。」
「別に怒ってないって!」
「怒ってる。俺が、他の女の子と仲良くしてたからだよね?」
「…だから怒ってないって言ってるじゃない…。」
「俺のことが好きだから嫉妬してくれたんでしょ?」


その言葉で、頬まで赤くして俯いてしまった夢。ヤバい、少し苛めすぎたかな、と思うと同時に夢の目からポロっと涙が零れた。それを見てギョっとする俺なんてお構いなしに、夢は一気に言葉を浴びせた


「だって、私って凶暴だし乱暴だし可愛いとこなんて何もないしっ、でもさっきの子は凄く可愛くて素直で不安になったの!しょうがないじゃん!?文貴がもしあの子のこと好きになったらどうしようって、離れていったらどうしようって、だけど今更っ…今更、可愛い女の子になんてなれなくて…怖くなって…不安で…。」


あぁ、何てこの子は可愛いんだろう。ごめんなさいと涙を零す夢を、俺はギュっと腕を回して抱きしめた


「…文貴?」
「大丈夫、俺は夢から離れていったりしないし、俺はそんな夢も好きだから。それに夢はとびきり可愛い女の子だよ。本当は俺のこと大好きで優しくてやきもち妬きな女の子だって知ってるから。」


頭を撫でてやれば、また顔を赤くして俺の胸に顔を埋める夢


「……ねぇ文貴、私のことどのくらい好き…?」
「好きすぎて死んじゃいそうなくらい。」
「…死んじゃ、嫌だよ…。」
「当たり前。夢を置いていったりしないよ。」
「うん、文貴、大好き…。」
「ありがとう。」


俺の彼女は凄く可愛くて、強がりで凄く怖い。だけどふとした時に笑顔を見せてくれるんだ。それに本当は優しい心を持っていて、それでいて人一倍、涙もろいんだ


「文貴、今絶対にこっち見ないでよ。見たらぶん殴るからね。」
「はいはい。」



だから、いつも俺が傍にいて守ってあげなくっちゃって思う。きっとキミは俺がいなくちゃ、ダメなんだろうから


バイオレンス・ハニー
(そんなキミが大好きでたまらないんだ)
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