私の好きなキミの好きな
今日の5限の授業は先生が出張で自習。いつもこの時間なら居眠りをする生徒で溢れかえっているのに、その教室はわいわいと賑やかな声で溢れていた


「あー分からない…。」
「日乃、まだ1問目で躓いてんの?」
「だって古典、嫌いないんだもん…。」
「だからってもう、だいぶ時間経つのにヤバくね?」
「……花井様、教えて。えへ。」
「はぁ!?何で俺が……ったく。」


そう言いながらも、読んでいた野球の雑誌を置いて私のプリントに一緒に向き合ってくれる。何だかんだで優しいんだよね花井くん


「花井…俺も教えてー。」
「…水谷、お前もかよ。」


それから花井くんの分かりやすい説明にふんふんと、プリントに書き込みをしてたら、ヨレヨレといった効果音を出しながら、水谷くんがプリントを持ってきた。見てみれば水谷くんのプリントは白紙同然。水谷くんは、あははーと笑いながら今は不在となっている私の前の椅子を引いて座った


「あ、日乃もう終わりかけてんじゃん。」
「うん、花井くんが根気良く教えてくれたからね。」
「お礼はジュースで良いからな。」
「え、お代はきっちり貰うんだ!?」
「安心しろ。水谷は帰りにアイス2つだから。」
「マジで!?」


そんな冗談を交えながらも花井くんの授業は進んでいってるわけなんですけども、私はそれどころじゃなかった。実のとこ水谷くんのことが好きな私。さっきから私は水谷くんの一挙一動につられて、ドキドキしっぱなしなのだ。まぁ、何度も花井くんに頭を小突かれながら頑張った結果、やっとのことでプリントを終わらせることが出来たんだけど。いつもより近くにある水谷くんの顔に、顔の火照りを隠すのは至難の業だった



「やっと終わったーっ!」
「ありがとう、花井くん!」
「おぉ。」


それから程なくして課題は終わって、授業終わりまで残り10分。にこにこと埋まったプリントを満足そうに掲げる水谷くん。水谷くんは、こういう無邪気なとこが本当に可愛いと思う。いつも笑ってて私に元気をくれるこの笑顔、私はこの笑顔から水谷くんのこと好きになったんだよね


「あ、そうだ。日乃に花井、ポッキー食べる?」
「あ、これ新商品のやつだ!」
「うん。朝、コンビニで見つけてそっこーで買っちゃったんだよね。」


どっから出したのか、水谷くんは早速ポッキーの袋を開けて差し出している。実は少し狙っていたお菓子なだけに、私は躊躇なく手を伸ばして1本受け取った


「あ、それ新商品のポッキーでしょ!?」
「へ!?…あ、う、うん!」
「ねぇ、私も1本貰っても良い?」
「も、もちろん!はい!」
「ありがとう水谷くん。」


横からぴょっこり顔を出したのは、私の前の席の女の子。彼女の出現にあからさまに、テンションをあげる水谷くん。え?何でって、それは水谷くんがこの子のことを好きだから。あーぁ、凄く嬉しそうな顔しちゃって。だけど知ってる?この子は花井くんのことが好きなんだよ。これを知ってるのはきっと私だけ。水谷くんを好きな私は、この子の一挙一動に頬を緩める水谷くんにそのことを教える気はなかった。残酷だって思うよね?だけど、私はきっと言わない


「これ凄く美味しいね。」
「うん、これ結構当たりだったよね。」
「水谷くんって当たりのお菓子探してくるの上手だよね。」
「そう?何かセンサーみたいなの付いてるのかな。」


好きな子を前に、始終頬を緩めている水谷くんを見ているのは凄く嫌だった。だからきっと今の私の顔は、とても酷いものなんだと思う。もう胸が苦しくて堪らないや。隣を見れば花井くんも、私を見て私と同じ様な表情をしていた


あぁ、貴方もそうなんだね…


私の好きなキミの好きな
(何て不毛な四角関係)
back