キミから不意打ちラブコール
野球部の練習量は、他の部活動よりも多いくて大変なんです。平日は朝の5時から夜は9時まで、もちろん休日なんてないから。即ちプライベートな時間は全く無いわけで、イコール彼氏の孝介と私との時間も無いのである



「つまんない、寂しい、ひもじい…。」
「いや、ひもじいは何か違くね?」
「煩い、浜田のくせに。」
「え、何この扱い!?」


クラスが1組の私は、少しでも孝介との時間を共有したくて昼休みは毎回9組に通ってる。だけど孝介は必ず、お昼休み以外の昼休みは夢の中。疲れているのに起こすのは気が引けるわけで、孝介を視界に収めるという目的に変更して毎日9組に通っているのである。でも暇だから手近な浜田を捕まえて相手してもらってるんだけどね


「だって私、孝介の彼女だよね?なのにここ1週間ろくに喋ってもないんだよ!?」
「…まぁ、野球部は今が一番大事な時期だからな。」
「知ってるよそのくらい。浜田のくせに。」
「え、だから何この扱い!?」
「…だから孝介を無理やり起こして話したり、我がまま言って時間を作ろうなんてことは絶対にしたくないの。」


だけど寂しいのは事実なんだけどね。えへっと笑いながら、伏せていた顔をあげればそこには珍しく優しい笑顔を見せる浜田。え、気持ち悪い…て言おうとする前に、頭をくしゃっと撫でられた


「お前、本当に良い彼女だな。」
「………っな、い、今更気づくなんて遅過ぎだしっ!」
「はは、そーだな。」


浜田のくせに、本当にこういうとこだけはしっかりしてるよね。何だかんだで、こうやって励ましてくれるんだから私はいつも浜田に弱音吐けるのかもしれないね


キーンコーンカーンコーン


「あ、ヤバいっ!そろそろ教室戻るっ!」
「急ぎすぎて転ぶなよー!」
「浜田じゃないんだから、そんなヘマしないよ!」
「俺もそんなヘマしねーよっ!!」
「あはは、ありがとうね浜田!」
「おう!」


うん、大丈夫。今は寂しいけど、きっと大会が終わったらまた前みたいに孝介との時間を作ることが出来るんだから。それまでは我慢して、孝介と野球部のみんなの応援しなくちゃね





「だから明日は千代ちゃんのお手伝いに行こうかな?」


お風呂から出て、いざ眠ろうとした時にふとそんなことを思いついた。野球部の応援も出来て、孝介も見れるんだから一石二鳥じゃない?何で早く気付かなかったんだろう。私ってバカー。そうとなったら今日は早く眠らなくっちゃいけない。早々に眠りに入ろうとした時、突然携帯の着信音が鳴り響いた


ピロリロリーピロリロリー


「…誰よこんな時間に。」


確か時間ももう23時を過ぎてるはずだ。だけど一向に鳴りやまない着信音に、私はしぶしぶながらも携帯を手に取った


「もしもし?」
『あぁ、夢?…俺だけど。』
「…え、孝介!?」
『そうだけど。』


何ということだ 。あの家に帰ったらご飯食べて、お風呂入って寝るという生活リズムの孝介が、私に電話をくれるなんて!!いや、それもそれで彼女の立ち場としてどんなんだって感じなんだけど…


「急に電話なんてどうしたの!?」
『何だよ、電話しちゃ悪ぃのかよ。』
「そうじゃないけど…孝介から電話くれるなんて久しぶりだから。」


どうしたのかなーと問えば、孝介には珍しい途切れ途切れな答え


『いや、…なんつーか最近、練習ばっかで話してねぇから…。』


なんつーか、寂しい思いさせてんじゃねぇかなって…何だこの胸キュンさせられるセリフは。孝介の口からこんなセリフが出てくるなんて!!


「う、うん、寂しかったけど大丈夫だよ!実はいつも昼休みに、孝介のお昼寝姿を見に9組に行ってたから。」
『はぁ!?何だよそれ!俺知らなかったんだけど!』
「だって、浜田にも言わないように口止めしといたもん。」
『でも、来てたんなら起こしてくれりゃぁ良かったのに。』
「孝介、練習で疲れて眠ってるのに起こすなんてこと出来ないよ。」


私は孝介の傍にいれるだけで、幸せなんだから


『…なっ!…お前、よくそんな恥ずかしいセリフサラッと吐けるな…』
「えー?お互い様じゃん。」


笑って言えば、明らかに孝介が電話越しに赤面するのが想像出来た


「ねぇ、孝介。明日の朝練さ、お手伝いしに行っても良いかな?」
『別に良いんじゃね?でも、お前んな朝早くに起きれんのかよ。』
「そこは愛の力でカバーでしょ。」
『じゃあ、明日の朝お前ん家まで迎えに行ってやるよ。』
「え、嘘!?」
『嘘吐いてどうするんだよ。』
「だって、孝介の家と私の家ってそんなに近くないよ!?」
『別にそんなに遠いって訳でもねぇし。それに俺、自転車だから2人乗りしてった方が早いだろ。』
「あ、そうか。」
『だから寝坊すんじゃねぇぞ。』
「分かった!絶対に起きるから!」
『おう、じゃぁまた明日な。』
「うん、おやすみ孝介。」
『おやすみ、夢。』


通話終了ボタンを押した後、少しだけ寂しいと思ってしまったけど、それ以上に暖かい気持ちが大きかった。本当に孝介って凄いと思う。だってたった電話1本で、沈んでた私の気持ちを一気に明るくさせるんだから


キミから不意打ちラブコール
(だからもっと好きになってしまうんじゃないか)
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