恋が呼んでる夏
テストの点数が悪い学生は強制的に夏休みも補講だ。なんて、ふざけた校則を叩きつけた先生は鬼だと思う。高校初の夏休みなんて、遊んで遊びまくるに決まってるじゃん。このままサボって遊びに行ってしまおうか、なんて考えながらも、トボトボと学校に足を向ける私は、何だかんだで真面目なんだと思う。いや、そもそも真面目に勉強してたら補講なんて受ける必要は無いんだろうけどね



「…暑い…。」


もちろん教室にクーラーなんて気の利いたものは無くて、他の補講メンバーは下敷きでパタパタ仰いだり、寝て気を紛らわそうとしている人が大抵だった。かく言う私も下敷き片手に、開いた窓から流れてくる風に癒されていた


カキーン


グラウンドでは、高校球児が一心にボールを追いかけている。青春だねーと思いながら、ふと同じクラスに野球部の子がいたっけと思い出した。確か栄口くんと、巣山くん?そんな時にグラウンドから「栄口ーっ!」という声が聞こえて、その不意打ちにドキっとしてしまった


「そっちボールいったぞーっ!!」
「おーっ!!」


高く弧を描くように飛んでいくボール。栄口くんはダッシュでそのボールを追いかけて、飛びつくようにキャッチした


「ナイキャっ!!」


その時の栄口くんの笑顔に、さっきとは違うドキを感じてしまった。何だこれは…その正体が分からない私は、まだボーっと走っている栄口くんを目で追ってしまっていた。そんな時に絡まる視線。栄口くんが、教室から見ている私に気付いたのだ。え、何、嘘どうしよう!今まで同じクラスでも対して喋ったことはないから、きっと栄口くんも私のこと知らないかもしれない。そんな人がずっと自分のこと見てたなんて、ちょっと気持ち悪くない!?だけど栄口くんは、またさっきみたいなキラキラした笑顔で笑って、声を出さずに口をパクパクさせながら言った


『頑張ってね、日乃さん。』


それを読み取って、またドキドキ


『…栄口くんも、頑張ってね。』


栄口くんは『ありがとう』という言葉を残して、また手を振って走って行ってしまった。彼を見てはドキドキ煩いこの心臓。その日1日、私は栄口くんのことで頭がいっぱいになって補講どころではなかった


あぁ、これが恋なんだ


恋が呼んでる夏
(さぁ、恋する夏が始まった)
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