キミを独り占めしたくて
「作ちゃんって面倒見いいよね。」
「は?いきなりどうしたんだ?」

いつもと何ら変わりない放課後。特に何もすることがなくて暇だと言うことで、作ちゃんの部屋で持参したお団子とお茶を両手に作ちゃんと2人、会話を楽しんでいた。そんな時についつい普段から思っていたことを、ポツリと口にしてしまった私に、予想通りというか素っ頓狂な声を出す作ちゃん

「べっつにー。」
「別にって何か拗ねてんだろ?」
「拗ねてないし。」

あんまり突っ込んでこないでよという雰囲気を醸し出して、私は残りの団子をパクリと口にした。どうも作ちゃんは納得がいかないようで、それでも尚、何だよなんて口を挟んでくる。もう、言うつもりなかったのにな…。どうやってかわそうかな、なんて思っていると外から廊下を走っている様なドカドカという音が聞こえてきた。足音はピタリと作ちゃんの部屋の前で止まり、誰だろうと思う暇もなくスパーンという音と共に、音の主は顔を覗かせた

「作兵衛!」
「どうしたんだ数馬?」
「また三之助と左門が迷子らしいんだ!」
「何だってー!あいつらぁぁあ!」

そう言うや否や、部屋を飛び出して行こうとした作ちゃんの足を私は思いっきり掴んで引き留めた。勿論、急に止められた作ちゃんはびたーん!という痛々しい音をたてて、顔面から畳へと激突してしまった訳で。その横では顔を真っ青にした数馬が、「だ、大丈夫!?」とオロオロしていた

「って、夢!いきなり何すんだよ!」

痛みで涙目になった作ちゃんは、ぶつけた額を真っ赤にしたまま私をキッと睨み付け憤慨した。私はそんな作ちゃんをしらーっとした視線で見た後、やっぱりちょっとやりすぎたかなと反省して、ごめんと謝った

「ったく、本当どうしたんだよ。」

ぶつけた額に既に部屋を後にした数馬から貰った軟膏を塗りながら、作ちゃんは今度は心配した様な目で俯いた私の顔を覗きこんできた。私はそれに応えないまま、膝の上で軽く握られた自分の拳をじっと見つめていた。きっと作ちゃんは、この軟膏を塗り終わったらすぐにでも三之助と左門を探しに行くんだろうな。なんて思ったらもう1度、足をひっかけて転がしてやろうかななんて悪い考えが頭を過った。でも流石にそれは不味いだろうから、すぐにその考えを断ち切る

「作ちゃんって本当に面倒見いいよね。」
「は?」

苦し紛れに呟いた言葉は振り出しに戻るそれ。塗り終わった軟膏の入れ物を袖口に仕舞いながら、作ちゃんは「そうか?」なんて頭を捻っていた。そうだよ作ちゃんは面倒見がよすぎるんだよ。いつもいつも三之助と左門の面倒見てるじゃない。だけど2人にとって作ちゃんは必要な存在だし、作ちゃんにとっても2人は大切な存在だって知ってるから、言えないよ。彼らに嫉妬してるんだって

「ほら、作ちゃん。2人を探しに行くんでしょ?私も一緒に探すからさ。」
「お、おう。ありがとな。」

だから今だけは作ちゃんを独り占めしても良いよね
私はさり気なく握った作ちゃんの手を引いて、迷子2人を探すべく作ちゃんと一緒に部屋を飛び出した


キミを独り占めしたくて
(だけど本当はこの時間だって嫌いじゃないんだ)
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