sweets > trouble
「ねぇ、コナンくんって疫病神か何かなの?」
「人を不吉な者扱いすんじゃねぇよ。」
「だったら死神かな。」
「オメー、ケンカ売ってんだろ?」

米花町をコナンくんと2人、全力疾走し始めて早5分。毛利探偵事務所にお世話になり始めては1か月が経ち、その頃からずっと思い続けてきたことを漸く、私は本人目の前にして口にした。当の本人は、うっすらと額に汗を掻きながらも、彼の3歩後ろを面倒くさそうに走る私へと冷めた視線を寄越してきた

「だって考えてもみてよ。普通に生きててそう何回も殺人事件や窃盗事件に遭遇する?」
「………。」

確かに私が海賊やってたあっちの世界では、窃盗や殺人的なアレは確かに日常茶飯事だったよ。まぁ、時代が海賊時代だから仕方がないと言っちゃぁ仕方がないんだけどさ。だけど此処って平和なとこなんでしょ。武器の所持や殺人だってご法度だってコナンくん言ってたじゃないか!それなのにコナンくんと一緒にいれば、必ずと言って良い程、何かしらの事件に巻き込まれるのだ。しかもそのペースが尋常じゃない。2日に1回のペース。そんな事件に高確率で遭遇するコナンくんを、不吉な者扱いして何が悪いんだ!

「うっせー。事件が俺を呼んでんだよ。」
「ほらまた!最近の若者はすぐに、うっせーうざい。で済ませようとするんだから!それに事件が俺を呼んでる云々は、くさ過ぎて腹筋崩壊するんでもう2度と言わないでください。」
「っ、何だよオメーはよォっ!」

そう言うや否や、そのまま後ろを振り返って突っかかってこようとしたコナンくんを横からスルリと交わして、今度は私が先頭になって走り出す。思わずタイミングを崩されたコナンくんは、体制を崩して転けそうになってたけど、悔しい程の持前の運動神経で立て直して、そのまま私の横に並んで走り出した

「いやー、よく転けなかったね。」
「…ってか夢、さっきから何、怒ってんだよ。」

チラリと横眼でコナンくんの表情を伺えば、彼の眼鏡の奥にある青色の瞳は色んな所を行ったり来たりと彷徨いながら若干、気まずげに歪められていた。はて、これだけ伏線を引きながらまだ気づいていないと言うのだろうか。哀ちゃんが言っていた「工藤くんは事件以外のことになると、鈍感だから。」と言っていたあの言葉は、あながち間違いではなかった様だ

「本当に分からないの?」
「…分かんねぇから、聞いてんだろ…。」

誰だこの小学生は。いつも二言目にはうっせー。ばーろー。と悪口が飛び出すその口は、今や不満げに突き出されている。それに形の良い眉は両方とも下へと下げられ、それに従って眉間にはぐっと皺が寄っていた。その表情が何とも年相応で、正直そういう子供らしい顔してた方が可愛いのになんて不覚にも思ってしまった。そんな彼に私の加護欲が煽られたが、私も伊達に彼と1か月も生活している訳ではない。普段の口生意気なコナンくんを知っているからこそ、此処で折れてはダメだと知っているのだ

「百歩譲って、コナンくんが事件に遭遇するのは偶然とするでしょ。」
「偶然じゃなかったら何だってんだよ。」
「事件が呼んでるんじゃなかったの。」
「…ばっ!オメーが言うなよ!」
「何、恥ずかしがってんのよ。自分が言いだしっぺのくせに。」

言われるのと言うのは違うんだよ、なんて全く意味の分からないニュアンスの違いという奴を話し出すコナンくんの言葉を、興味ないからの一言で一刀両断にする。今はそういう話をしている訳じゃないんだよ

「だから私が不機嫌なのは、何で私がいつもそのコナンくんの事件に巻き込まれてるのかっていう話!」

言ってしまえばコナンくんは、は?それだけ?みたいな顔で此方を凝視してきた。余所見しながら走ると今度こそ転けるよ、と忠告してあげようかと思ったけど、何だか無償に苛立ったので、寧ろ転けろと心の中で強く念じた

「それに今!現在進行形で!ひったくり犯を追ってるって言うね!」

ズビシ!と前方30m先を走っている全身、黒ずくめのひったくり犯を指さして、私はキっとコナンくんを睨み付けた。これで言い逃れなんて出来ないはずだ!それなのに、コナンくんときたら相変わらず、意味が分からないという顔で眉を顰めていた

「お前、好きで首突っ込んでたんじゃなかったのか?」
「誰が好き好んで、厄介ごとに首突っ込んだりしますか!そもそも今回だって、コナンくんが何でか私の腕を掴んで犯人を追跡しだすから、強制参加させられてんじゃん!」
「そうだっけか?」

天然なのか計画班なのか無自覚なのか…。もうどうでも良いけど私を巻き込まないで欲しい。今日だって早く家に帰っておやつのケーキを堪能したかったのに!そんな彼の態度に溜息を吐きながら、こんな自分もどうかと思う。結局、巻き込まれてそれに付き合うあたり、お人よしというか何というか…

「だけど、そろそろ追いかけるのも飽きてきた。」
「つっても、今日はスケボーもサッカーボールも持ってねぇし…どうやって捕まえるか…。」

あれでもない、これでもないと。きっと彼の頭の中では今、色んな犯人を捕まえる作戦が練っては取り消されてるんだろう。そこで私はピン!と素晴らしい提案に気付いて、にっこり笑顔で隣の彼へと提案した

「今日のコナンくんのおやつのケーキで、手を打とうじゃないか。」
「……お前、2つも食うのかよ。」
「大丈夫、それくらいカロリー消費してるから。」

そういう問題じゃねぇだろ。と呆れた表情を浮かべる彼はもう今じゃお馴染みだ。滅法、甘い物に目がない私は、何度も彼にそんな顔をされているのだから。今じゃ何の効力もないぞ

「けど、どうやって捕まえんだよ?」
「捕まえる方法なんて1つじゃん。足だよ、探偵。」

まさかそんな私の回答が意外だとでも言う様に、コナンくんは目をまん丸くさせて驚いていた。何てことはない。前にやってた刑事ドラマで、所轄の刑事さんが言っていたのだ。犯人逮捕の決めてとなるもの、それが足だって

「と、言うことでケーキ。約束だからね。」

そう言うや否や、私はぐっと足に力を入れて走りだした。一瞬。そうして瞬きをするよりも早く、ひったくり犯の後ろへとついた私は、そのまま飛び上がり犯人の側頭部へと蹴りを決め言うのだった

「つーかまーえた。」


sweets > trouble
(まさか逃げる生活から追う生活になるなんて…ね)
「って、あれ?コナンくん顔が真っ青だけど、どうしたの?あはは、何かデジャブー。」
back