計画的な方向音痴

「おーい!夢ー!何処だーっ!」

裏裏山の茂みの中。此処に身を潜めてどれくらい時間が経っただろうか。私は、漸く聞こえてきた声の主に気付かれない様、下していた腰を上げてこっそりその場を移動した

「ったく、アイツ何処まで行ったんだ。毎度毎度、迷子になりやがって探す方の身にもなれってんだよ。」

そう口では文句を言いながらも、おーい!夢ー!なんて大きな声を出しながら探してくれる作ちゃんに、自然と口角が上がる。相変わらず、作ちゃんの面倒見の良さと言うか、真面目さには頭が上がらないな。私はそのまま近くにあった大きな岩陰に身を潜めた

私と作ちゃんが出会ったのは1年生の中頃のこと。三之助と左門と言う名のトラブルメーカー迷子2人を探している作ちゃんと、裏山で出会ったのが始まりだった。忍術学園で生活して半年、最初は学園に慣れることに精一杯だったけど、慣れて来た頃に漸くやってきたホームシック。寂しくて恋しくて、どうしても泣いてしまいたくて、誰も来ないであろう裏山で、1人故郷を思ってめそめそと泣いていた。そこを作ちゃんに見つかってからは、私は彼の迷子カテゴリーにカテゴライズされてしまったのだ。だけど何度、迷子じゃないと言っても、彼は「嘘つくな。学園に帰れなくて泣いてただろ。」と言って、信じてはくれなかった。最初は何度も否定していたけど、いつでも何処にいても絶対に私を見つけてくれる作ちゃんが嬉しくて、終いには業とこうして人目に付かない場所に隠れる様になったのだ。そして、こうやって始まった作ちゃんと私の迷子劇も3年目。ただでさえ、三之助と左門で手一杯なのに…と思う反面、やっぱり嬉しくて止められないのだから申し訳ない

「やっと見つけたぞ夢!」
「あ、見つかっちゃった。」

そんな懐かしいことを思いながら岩陰でクスクスと笑っていた所を、遂に作ちゃんに見つけられてしまった。真横で私を見下ろす作ちゃんは腰に手を当てて、酷くご立腹の様だ。私はそんな彼と同じ目線に立ちあがると、両手を顔の前で合わせて「ごめんね。」と謝った

「そう思うなら、お前は1人でもう行動すんなよな!」
「善処します。」
「した試しが今まで1度もねーじゃねぇか!」

そう突っ込みを入れながら、作ちゃんはコツンと私の額を小突いて呆れた様に笑った。全然、痛くなんてないその攻撃に、私はへへっと笑って「帰ろう。」そう言って作ちゃんに左手を差し出した。おう、と一言応えた作ちゃんはパッとその手を握り返して、くいっと学園までの帰り道へ手を引いてくれた。作ちゃん曰く、この手は迷子綱変わりなんだって

「作ちゃん、見つけてくれてありがとうね。」
「また、夢に泣かれても困っからな。」
「ふふ、もう泣かないよ。」
「どうだか。」

作ちゃんに握られた手はぽかぽか暖かくて、ついつい頬が緩んでしまうのを感じた。この瞬間が幸せだな、なんて。もし私が本当は迷子なんかじゃないって知ったら、作ちゃんは怒るのかな。それとも良かったなんて安心してくれるかな。そんな想像をしては、本当のことを言ってしまおうかなんて考えるけど、まだまだこの温もりを手放したくない欲張りな私は、明日は何処に隠れようかな、なんて計画を立てるのだった


計画的な方向音痴
(作ちゃんにはまだまだ内緒だな)
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