繰り返し零したそれは
今は使われなくなった蔵の下にある、小さな一室。光も射さないその場所が今の私の居場所。此処に閉じ込められて、どのくらいの時が経ったのか、私には何一つ知る術がなかった。紐で縛られ自由を奪われた手と足はもう、私にとって何の違和感も感じさせなくなっていた。唯一私に許されることは、彼だけを見て愛することだけだった



「夢、ただいま。」


キィ…っと鉄の錆びた音を響かせ扉を開けて1人の男が、私のいる地下へと下りてきて、にこにこ、顔に笑顔の表情を張りつけて私の前に腰を下ろした。彼は、私が愛さなければいけない人


「………おかえり、…なさい……八左ヱ門……。」
「ちゃんと良い子にしてたか?今日は特別に夢の好きなあんみつも持ってきてやったんだぞ。」


食堂のご飯の横にちょこんと乗せられている、小さな器。そこには私が以前、大好きだったあんみつが乗せられていた。だけど


「……ごめんなさい…私、あまり、食欲が……なくて…。」
「そんなんじゃ駄目だぞ?元々、細かったのに今じゃその半分程になってるんだぞ。」
「…ごめん、なさい……。」


このやりとりを何度と繰り返してきただろうか。八左ヱ門が持ってきてくれる食事を、私は何度となく拒んできた。きっと、無理やり食べさせられたとしても全てを戻してしまうから、八左ヱ門もそれを分かっているから、無理やり食べさせようとはしてこないのだ


「……仕方ないな…。」


八左ヱ門はそう言いながら、そっと私の痩せこけた頬へと指を這わした。この後の流れも毎回、同じだった。私は八左ヱ門の熱っぽい視線を受け止めて、これから行われる行為にただ。ひたすら彼の名前を呼んで答えるしかないのだ。そう教えられたから


「夢、愛してる…っ、愛してる……っ夢…夢っ!」
「…八、左ヱ門っ、八…っ!」


狂ったようにお互いの名前を呼び合い、動物のようにお互いを求めあって、私は毎夜毎夜、彼の熱を受け止めた



行為が終わった後の言葉もいつも同じだった。もう枯れてしまって出てこない涙の代わりに、声を振り絞り私は言葉を零すのだ


「……お願い…八左ヱ門……もう、お願い…私を、殺して…お願い……っ。」


八左ヱ門の膝に縋りついて懇願する私に、彼は何度も何度も言うのだ


「ごめん…ごめんな…本当に……ごめん……ごめん……。」


苦しそうに、切なそうに彼はそう零すのだ。たくさんの「ごめん」と、たくさんの「愛してる」を…私の代わりに彼が涙を零すから、私までもが苦しくて、切ない気持ちになるんだ


「ごめん…夢…ごめん…ごめん……愛してるんだ……っ。」


繰り返し零したそれは
(その綺麗な涙は、私の身体に染み込んで
 今の今まで生かされているのでしょう…)

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